縁談

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縁談

「また縁談が来てるわよ」  縁談と言う言葉に反応してしまうけれど、母が言うのはきっと妹シャルロッテの話。  私に縁談が来るわけがないから。 「えー? 先日も来たばかりじゃない。困っちゃうなー」  シャルロッテはもちろん自分のことだと思ってその話に乗っかる。  母はシャルロッテ宛の手紙に目を通しながら、 「遠国の王子らしいわ」 「へえ、どなた?」 「ハーシェル共和国のシュウ・シュテファンですって」 「誰?」 「誰かしらね……?」  二人ともその名を聞いたことがないようで、首をかしげて顔を見合わせる。  私も聞いたことがない。というより、興味がないから知らない。 「パパは知ってる?」  シャルロッテは母からその手紙を受け取って、父ヨハンに見せる。 「うーん……。聞いたことないな……。確か山岳国のはずだが」 「えー、パパが知らないんじゃロクな奴じゃないかも」  ヨハンは国際事情に詳しい。なぜからドーレスの王だから。 「……しかも何これ。『絶世の美女と名高いシャルロッテ姫にぜひ我が国の花になってほしい』だって。ひどい文句よね。それに分かってないなあ。あたしはこの国の王妃になるのよ。欲しいのは、単なる夫じゃなくて婿養子」  シャルロッテはそう言って、手紙をびりっと破いてしまう。  私たちは二人姉妹なので、跡継ぎになる男子がいない。だから、よその国から婿養子を取る必要があり、妹はその相手を絶賛募集中だった。  正確にはこっちから呼びかけているわけじゃなくて、向こうからいっぱい縁談の話が押し寄せてきていた。  シャルロッテは私から見てもすごく美しい。同じ両親から生まれたとは思えないぐらいに、綺麗な金の髪はつやつやだし、顔は小さくてお人形のよう。肌もきめ細やかで絹みたい。  私? 私のことはその逆だと思ってもらって全然大丈夫。  ドーレスはけっこう強い軍事大国で、婚姻同盟を結んでおきたいと思う国が多かった。 「あ、破いちゃった。お姉ちゃん、必要だった?」  シャルロッテはわざわざ私の前に来て、ふふっと笑う。 「いらないわ。誰も私なんて欲しくないでしょ」 「そうだよね! 男を尻に敷いちゃうお姉ちゃんに縁談なんて来るわけないもん」  私をあざけ笑うのはいつものこと。  気にしてないとは言えばウソになるかもしれないけど、妹はそれをする権利がある。父も母も、妹こそが良い人を国に呼び込んでくれると期待していて、国家に大いに貢献する価値ある人なのだから。 「そうだ! あたしの代わりなんてどう? お姉ちゃんがシャルロッテになって、この人に嫁げばいいじゃない」 「なっ!?」 「それはいいわね。どうせ田舎の王族に美しさなんて分からないわ」  妹のとんでもない発言に母が乗る。 「というわけでこれ。よかったね、お姉ちゃん」  小悪魔的な笑みを浮かべ、私の手を両手でぎゅっと握る。  そこにはもちろん、ビリビリに破かれた貴族からの手紙が残される。  さすがムカっとして突き返してやろうと思ったけど、シャルロッテはもう母のところに戻ってしまっている。 「早くいい人、現れないかなー」 「ふふ、シャルロッテちゃんに見合う人なんてそう簡単には見つからないわ。気長に探しましょ」 「公爵と婚約を破棄してからけっこう経つじゃない? 相手が見つからないように思われてたらヤダなー。すぐ新しい婚約したーい!」  かつてシャルロッテはドーレス国内のテオドール伯爵と婚約していて、美男美女でお似合いと世間の評判だった。でも、数ヶ月前に急に婚約を破棄していた。  その理由は私もよく知らない。聞かされてない。  テオドールもそれから姿を現さなくなっていて、何か王室の圧力がかかっているんだと思う。  実際、私も王室によって存在を抹消されていたりする。 「そうねえ。偽装の婚約でもしておく? 最近、とりあえず婚約しておくのも流行っているらしいわ」 「なにそれ? つなぎってこと? あたし一途だから、本気で好きになっちゃうかもよ? ふふっ」 「それは困っちゃうわね。早く本命を見つけましょ」  王族だけが入れるこの部屋は、最高級の調度品が国中、世界中から集められていて、まさにロイヤルな雰囲気がある。  でも私はここが嫌いだった。  それは自分が相応しい人じゃないから。  すれ違えば誰もが振り向く美しい妹シャルロッテ。そして、すれ違えば誰もがため息をはく姉テレジア。  両親が妹を可愛がるのはしょうがない。妹は生まれつき可愛いし、私は嫌われることばかりしていたから。  私は小さいころから、やんちゃ娘と知られていて、貴族の子弟を引き連れて遊び回ってた。城の中を走り回り、兵士に交じって剣を振るったりした。  お転婆がすぎる。それは子供だから許されていたけれど、年頃の女が男を引き連れて、野山へ狩りにでも出かけたら風聞が悪すぎる。  自業自得なんだけど、王室の名誉を守るために、私は城に閉じ込められてしまった。  監禁されているというほどじゃない。でも城の外には一切出られず、変な噂が立たないようにと会える人も限られていた。
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