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「そうか。テオドールとやら、その女が憎いんだな」
これまで黙っていたシュウが口を開いた。
体力が回復したのか、あぐらをかいて座っている。
「よし、殺せ。見届けてやる」
「は!? 何言ってんのよ! 守りに来たんでしょ!」
「お前も分かっただろ。どっちが悪いかなんて」
「う……」
いきなり何言ってるんだと思うけど、シュウの言うことはもっともだ。
これが肉親のことでなければ、間違いなくこの婚約破棄をしたほうを悪だと断じているはず。部外者のシュウならやはりそう思うんだと思う。
でも、そんなのいいはずがない……。
「殺すなら私を殺せ」
父が立ち上がり、テオドールの剣の前に立つ。
「すべてはわしの責任だ。国のことは無論、娘のことも……」
「貴様が代わりに死んで詫びるということか?」
「ああ……。だから、どうか娘だけは許してやってほしい……」
そう言って父は深く頭を下げた。
「やめてお父様!」
シャルロッテが叫ぶ。
王が臣下に頭を下げるなんてあってはならないこと。ましてや、自分の父が部下に懇願している姿なんていい気分しない。
「テオドール、違うわ。これは……あ、あたしが悪くて……」
「ならばこれで首を切れ」
テオドールは腰に差していたナイフを抜いて、シャルロッテの足元に投げた。
「え……」
シャルロッテはどうしていいのか分からず、ナイフを拾えなかった。
「シャルロッテ、拾わないでいい!」
私は叫んだ。
「これはあの二人の問題だ。部外者は黙ってとけ」
「なんで!? 私は……もごっ」
シュウに羽交い締めにされ、その上、口まで塞がれてしまう。
「さあ、拾え!」
テオドールに言われ、シャルロッテは戸惑いながらもなんとかナイフを拾い上げる。
私が部外者? 確かにこの王室が嫌で家出しようとしたけど……。シュウは何を考えているの? やめさせてよ! 人でなし!
シャルロッテは刃先を首に向ける。
全力で振りほどこうとする。でもシュウの力が強くてびくともしない。
ナイフの刃は……それ以上進まなかった。
シャルロッテは脱力し、ナイフを取り落としてしまう。
「結局、その程度ですか」
テオドールが冷たく呆れた声で言った。
当然そうなるだろうという感じ。シャルロッテが自分を殺せるなんてはじめから思ってなかったみたいだ。
それを見届けると、シュウは拘束を解いてくれる。
たぶんだけど、テオドールと同じように思ってたんだと思う。無責任な男に見えるけれど洞察力がすごくいいから。
「これで事態は収まらなくなったな」
苦い顔でシュウが言う。
テオドールもシュウも、シャルロッテが自分で死ねるのかというより、本当に罪を認め、責任を取る覚悟があるのかを確かめるつもりだったんだ。
シュウなら実際に首にナイフを当てたときに、ナイフをクナイで弾き落とすぐらいのことはしそうだった。
でも……形ばかりは謝ったが、妹に命をかけて償う覚悟はなかったみたいだった……。
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