青い星

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 重力装置が壊れ、鉢の破片が浮いていた。その破片の影を落とす青い光は、木漏れ日のように淡く、もう一度風が吹けばどこかに攫われてしまう気がした。宇宙船のエンジンは辛うじて息をしていたが、止まるのは時間の問題だった。船長は震えた手でスイッチを何度も押していた。カチカチカチという秒針みたいな音が響いていたが時間は止まっていた。船の白い光は宇宙の暗闇に塗りつぶされていた。閑古鳥が鳴くことすら許されないほどの静寂が空間を支配していた。   ――まだ間に合う。宇宙船には一つの星を破壊できるほどの核燃料が積まれていた。船の舵をとり、あの青い星に向かって行けば三百年後の世界を生きる何億もの人間を救うことができる。  それに対して私達が宇宙空間をこのまま彷徨って、生き残れる確率は限りなくゼロに近いだろう。無限に広がる宇宙の中で、他の宇宙船と出会わなければその奇跡は起きないのだ。ならば未来の人類に貢献するべきではないか。  私にできる選択は二つだ。舵を取り、我々の命を犠牲に人類を救うか。それとも、何億人もの命を犠牲に、来る可能性が殆ど考えられない助けを待つか。
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