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その奥で、やたらと大柄な男が立ち上がる。この場にいる全員が同じ白いつなぎのユニフォームを着ているのだが、彼は一見すると別の服を着ているのではないかと錯覚するほど迫力が違う。それだけ規格外の屈強な肉体を持っていた。
「馬鹿か? 『探索刑』なんだから当然だろうが。空気もない星に人間を送り込んだら、着陸した瞬間に全員が死ぬことになるのだからな。お前たち、そんなところでぐずぐずしていないでさっさと立て。周辺環境について調べて来い」
人に命令を下すことに慣れた様子でそう言いながら、大男は周囲を見回していた。彼は堂島創、三十九歳。明るく短い茶髪に、鳶色の瞳、百九十二センチもの長身を持つ。
と、堂島の横にいた、短いドレッドの髪をした浅黒い肌の男が、砂の上に胡座をかいて座ったまま低く笑い声を漏らした。
ドレッド髪の男の名前はエイタ。三十歳。身長は百七十八センチと、堂島より十センチ以上も低い。しかし、彼の無駄なく引き締まった体つきは、服越しでも感じとることができた。
「なにがおかしい」
堂島が問う。
「馬鹿はどっちだか。テメェは『探索刑が執行された犯罪者が帰ってきた』なんて話を一回でも聞いたことがあんのか? 探索刑だなんて耳障りの良い名前をつけちゃいるが、その実態は、当たりが入っているかどうかすら分からん宝くじを渡されるだけの死刑だぜ。お気楽クソ野郎」
エイタの言葉を聞いて、堂島は不機嫌そうに眉根を寄せる。
「だからって何だ、そこにずっと座り込んだまま死を待つと言うのか?」
「場合によっちゃその方が楽かもな。そもそも、今のも『着陸』だなんて呼べるような代物だったか? ただ墜落しただけだろ。現実を見ろって言ってんだ」
エイタは腕を広げて周囲を示して見せる。サラサラとした砂が緩やかに起伏し山になった地面。壁のように大きな岩が所々に突き出ているばかりの荒野だ。その中に、彼らが乗ってやってきた『発射型輸送ポッド』の残骸が散乱している。地面に激しく叩きつけられたせいで大きく破損しており、一見して修復は不可能であることがわかる。客観的に見てみれば、この大破した乗り物に搭乗していた人間が無事だったことの方が奇跡だと思えるほどだ。
しかし堂島はエイタの指摘を小馬鹿にしたように鼻で笑った。
「ハッ。なにかと思えば、ただ文句が言いたいだけではないか。お前のような、悲観しかしない口だけの無能を見ると虫唾が走る。下層民が勝手に野垂れ死ぬのは構わんが、人様の足を引っ張るな」
エイタは目の端を吊り上がらせ、勢いよく立ち上がると堂島に詰め寄る。
「んだとテメェ。下層民だから何だってんだよ。ここではそんなこと関係ねぇだろうが」
「ほう、やはり下層民だったか。宇宙船のネズミめ。そうやって他人に突っかかることしかできないのでは、どこへ行っても何の役にも立たんからな」
「やる気かコラ。ぶっ殺してやる」
「できるものならやってみるといい。できるものならな」
二人の言い合いはヒートアップし、ついにエイタが堂島の胸ぐらを掴み掛かる。
「ちょ、ちょ、ちょっと。二人とも落ち着いて。未知の星についた直後に喧嘩なんかして、何になるって言うんだ」
螺鈿が慌てて二人の間に割って入ろうとする。だが、螺鈿の細腕で彼らの肩や腕をいくら押そうが、屈強な肉体を持つ二人は微動だにしない。困りきった螺鈿は、座り込んだまま様子をただ眺めているだけのアハトに助けを求める。
「そこの君、黙って見ていないで止めてくれ」
アハトの身長は百八十二センチあり、堂島ほどではないが体格も良い。しかし。
「何で?」
その薄い唇より出てきたのは、あまりにも短い問いかけだ。濡れたように波打つ前髪の下から、アハトは吊り目気味の瞳で螺鈿を見返した。小綺麗に整った顔立ちには何の表情も浮かんでいない。
「何でって……到着早々、仲間割れは困るでしょう」
「俺たちに仲良くしろったって無理な話だ。全員が犯罪者だぞ。そう言うアンタだって、ここにくる前に誰か殺してんだろ」
アハトの淡々とした指摘に、螺鈿は言葉に詰まる。反論できないのは、それが事実だからである。
この場にいる彼らは全員、殺人という第一級の罪を犯した囚人たちだった。
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