第一章 未知の星 一 墜落

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 アハトからの指摘にすっかり押し黙ってしまった螺鈿を完全に無視し、堂島とエイタは一触即発の雰囲気だ。言葉どおりに殴り合いを始めるべく、エイタが改めて拳を握り込んだ、そのとき。 「うわあああっ」  彼らがいる場所から少し離れた位置にある、地面から突き出た大きな岩の裏側から、若い男の叫び声がした。  四人の囚人たちは喧嘩を一時放棄すると岩を回り込み、様子を確認しに行く。  岩の反対側では、身長百六十五センチと小柄な青年が腰を抜かし、地面にへたり込んでいた。青年の名前は吉野(よしの)(れん)。実年齢は二十二歳。アハトより四歳年下なだけだが、囚人とは思えない幼い顔立ちのせいで成人前にしか見えない。頭に傷を負って、髪の下から右目の横にまで血が垂れてきている。  驚愕に目を見開いている吉野の視線を追い、彼が叫んだ理由をアハトもすぐに理解する。大破した発射型輸送ポッドの半分が、岩にめり込んでいる。そして、機体の半分を失い、完全に露出したポッド内部の壁面には、ベルトで繋ぎ留められ、宙吊り状態になっている男がいた。  白いつなぎのユニフォームを着た四肢は不気味に脱力し、衝撃の余韻で足が微かに揺れている。同じく重力に従い俯く顔は、垂れた長い亜麻色の前髪によって覆われていた。 「ポッドの中では、私たちもああしてベルトで固定されていたんだな。ただし、投げ出された私たちのベルトはポッドの大破と同時に自動的に外れた、と。たまたま運が良かったのか、それがポッドとしての正常な動作なのかは分からんが」  様子を見て堂島が言葉を漏らす。  彼ら自身には、ポッドに乗り込んだ時の記憶が存在していなかった。  裁判所で探索刑を宣告された囚人は、拘置所の独居房でただただ刑の執行を待つのだ。探索刑に処される囚人が六人集まると、事前通告もなく出発の朝を迎えることになる。  処置室へ運ばれ、ブリンクを体内に埋め込むため麻酔をされて手術を受けるのだが、麻酔を施された囚人がイザナミで再度目を覚ますことはない。意識のないまま発射型輸送ポッドに搭乗させられ、宇宙に放り出される。囚人の抵抗による面倒をなくすための手順であるが、当の囚人にとっては、『手術室で意識をなくし、気がついたら未知の星に到着していた』という状況になる。  あくまで、輸送時や到着時に不運がなく、無事に生きていれば、という話ではあるが。
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