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「おいお前、その水はどこから持ってきた」
堂島から高圧的に問いかけられ、アハトは冷ややかな眼差しを返すと、もう一つ持ってきたボトルを堂島へ向けて放り投げた。
「あの残骸の中だ。六人分の食糧と水があった。人数と量的に、一週間保つかどうかという、ささやかななものだが」
堂島は空中でボトルを受け取ると、口角を上げて笑う。
「なるほど、探索において拠点を構築するための初期物資か。それが六人分ということは、この星にいる人間は、ここにいる者で間違いなく全員ということだな」
アハト、螺鈿、堂島、エイタ、吉野、それにポッドの中で死んでいた男で六人だ。
「お前、名前は? それと職業を答えろ。イザナミではなにをしていた」
堂島から続けて問いかけられ、アハトは目を細める。
「アハト。それ以上のことをアンタに言う必要ある?」
「職業を知れば、お前が使える人間かどうかがおおよそわかるだろ。そこの闇医者は使えそうだ」
「だったら自分から名乗ったら」
アハトも螺鈿に続いて堂島へ自己紹介を勧めたが、堂島は鼻で笑うのみだ。と、様子を静観していたエイタがそこに口を挟む。
「このクソ野郎の名前は堂島創だ。堂島グループの社長。いや、元社長か。名乗らねぇのは、『自分のことを知らない人間なんて居ないだろう』っていう思い上がりなんじゃねぇの」
堂島グループは、イザナミにおいてトップクラスの手広さで事業を展開している大企業だ。イザナミ内で上層と下層の社会はほぼ分断されているが、下層に住むアハトも知らず知らずのうちに名前を認知する程の存在感があった。
「上層にある会社の社長の顔なんて、よく知ってるな、アンタ」
「俺も元は知らなかったぜ。ただ、知り合いのジャーナリストがこいつに殺されたもんでね。堂島グループの社長が逮捕されたってニュースは下層まで届いてたし、注意深く聞いてたよ」
アハトの言葉にエイタが軽い調子で応える。それは衝撃的な告白だったが、この場にいる誰も驚きはしなかった。
「そう言うアンタの名前は? アンタもジャーナリストだったのか」
「いや違う。俺は亜門って闘技場でファイターをやってた。名前はエイタだ」
「なるほど、亜門のファイターか」
エイタの仕上がっている体つきを眺め、アハトは納得する。
「亜門を知ってんのか?」
「ああ。人に連れられて、バーの方に行ったことがある」
亜門とは、エイタの説明のとおり、下層にある闘技場の店名である。店の中央に金網で囲われたフィールドが設置されており、ファイター同士や挑戦者がその中で戦う。客は試合の様子を眺めながらどちらが勝つか賭け、併設されたバーで酒を飲む。
試合に存在するルールは『武器の持ち込み禁止』のみ。片方が負けを認めるか意識を失って試合続行不能となれば勝敗が決するが、その危険性の高さ故に、死人を出すこともある。このような店の営業はイザナミの中でも違法であり、アンダーグラウンドな存在だ。
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