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二人のやりとりを耳にし、堪えきれなくなったという様子で堂島が噴き出し笑った。
「イザナミの生活の基盤を作っていた私のことがわからず、怪しげな店のことは知っている、と。下層の人間の頭というのはつくづく救いようがないものだな」
アハトは軽く息を吐き出しながら堂島の言葉を無視したが、エイタは派手な舌打ちをした。
「下層民が生きるには、時には道に外れることも必要になんだよ。けどよ、上層はどうだ? 生まれた時から、恵まれた環境ってのが用意されてんだろうが。俺には、そんな『救いようがない』下層の奴らと一緒に宇宙にほっぽり出された上層のクズの方が、よっぽど救いようがないチンカスだと思うがな」
「低層民の口の汚さは、まったく聞くに耐えんな」
堂島は呆れた様子で一度言葉を切ると、エイタから吉野へと視線を向けた。
「しかし、下層民が少ない語彙で罵る人間が、ここにはもう一人いるようだが」
ちょうど傷の手当てが終わり、螺鈿が吉野の手をとって立ち上がったところだ。
「どこの人間の身内だったかは忘れたが、その生っちょろい顔は、堂島グループが開催したパーティで見た覚えがある。お前は上層の市民だな?」
その言葉に、堂島以外の全員の視線も吉野へと向く。吉野はおどおどとした落ち着きのない様子で全員の顔を見返した。
「は、はい。ボクは吉野蓮といいます。学生、でした。父がスプレンディング社の研究員をしていて、ボクも堂島さんのことは、憶えています。パーティでは、お世話になりました」
見た目の幼さに加え、話し方も身に纏う雰囲気も、ここにいる人間たちの中で吉野だけが異質だ。場違い感甚だしい。
吉野の言葉を聞いてから一拍置いて、堂島がなにかに思い当たり、ハッとした表情をする。
「スプレンディング社の主任研究員が殺されたという話は小耳に挟んでいたが、その犯人がお前か」
吉野はただ俯いた。それは言外の肯定である。つまり、吉野は親殺しの罪で探索刑に処されたことになる。
「ほう……それは、なかなか」
堂島が片側の口角を上げ、含みのある言葉を発したとき。彼らの会話を黙ってただ聞いていたアハトは、奇妙な物音に気がついた。
サラサラと乾いた音は、周囲に広がる細かな砂粒が動き、互いにぶつかることで出ているもの。その音に混じって聞こえてくるのは、擬音語に表すのならばチッチッ、チュウチュウといった有機的な音。例えば口の中で舌と上顎を使い、空気の通り道を狭めながら息を吸ったときのような。
耳を澄ませたアハトは、その奇妙な音がいま突然鳴り始めたわけではないことに思い至る。お互いの会話に熱中している人間の耳でも、認識することができるほどに音が大きくなっただけだ。音は、四方から徐々に近づいてきていた。
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