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「清史郎ーーー」
バカでかい声で母親に名前を呼ばれ、僕は何かと思いリビングに顔を出した。キッチンで忙しなく料理をしている母親が牛乳パックを握りながら、僕を見る。
リビングでは5年前に起きた女子中学生の飛び降り自殺の事件が報道されている。母はその報道を聞くなり、僕から目を逸らし「あらーもう5年も経つのねぇ」と言った。この事件は僕が通っていた中学校で起きたものだった。僕と同学年の女子中学生が飛び降り自殺し、当時は教室は騒然としていた。僕は同じクラスではなかったし、まったく知らない生徒だったため実感はなかったが、これにより屋上が閉鎖されたのを覚えている。
報道が終わると、僕の方を見て「あ、そうだ」と思い出したように呟いた。
「ごめん、牛乳切らしちゃって。コンビニで買って来てくれない?」
「えー」
「好きなアイス買って良いから」
僕は母親からお金を貰うと、スマートフォンをポケットに入れて家を出た。
夏休みに入り、部活に所属していない僕は毎日ぼんやりと勉強するだけの日々を送っていた。学校がある時の方がまだ生き生きとしていた。水沼さんにも学校に行っていないのでしばらく会っていない。頑張って花火大会とか誘えばよかったんだろうが、僕如きの下等生物が水沼さんを花火大会に誘うのは烏滸がましすぎる。
ただ遠くから見れればいいのだ。
僕はコンビニへの道を鼻歌を歌いながら歩いていた。すると突然、僕の目の前に黒いふさふさとした大きな物体が落ちてきた。慌てて僕はそれから避けると、勢いあまって尻もちをついてしまった。
「な、何だ?」
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