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 僕は四つん這いになりながら目の前にいる黒い物体に近づく。モゾッとそれが動き、その気味悪さに僕は「ひッ」と小さく悲鳴をあげた。するとギョロっと何かが動き、それが目だと分かった瞬間、僕は固まってしまう。  だ。怪物が今、目の前にいる。  狼少年とか、化け狸とか、幽霊とか妖怪とか、鬼とか、そんなものは実際には存在しない。しかし今、僕の目の前にはそんな怪物がいる。怪物なんてアニメのような創作物の中にしか存在しないものなのではないのか?  真の恐怖を感じた時、人は声が出ないらしい。僕はまったく身動きも取れず、声も出せず、その場でやるすべなしの状態になってしまった。僕の身体よりも5倍は大きな体をした怪物が、ぎょろりと大きな目で僕を見下ろす。ここから逃げた方がいいのに、僕の身体と脳がその時だけ神経が切れていたようで、うまく指令が伝達されなかった。 「比嘉(ひが)くん……」  ぼそりと誰かが僕の名前を呼ぶ声が聞こえた気がした。僕はその声を聞いて「え……?」と声を出す。声が出せるようになったことにも気づかず、僕はぽかんとその怪物を見た。 「水沼(みずぬま)さん……?」  怪物の方から水沼さんの声が聴こえた気がした。水沼さんは僕と同じクラスのマドンナで、僕は高校1年生の時から今現在まで約1年半片想いしている相手だ。そんな相手の声を間違える訳がない。しかし水沼さんはどこにも見当たらない。今見えるのは大きな黒い怪物のみ。
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