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 怪物は突然あわてふためき、そして近くの電柱に捕まった。顔を電柱で隠そうとし、チラチラと顔を覗かせている。どうやら体格にはそぐわないくらい大きな身体を細い電柱で隠そうとしているようだ。  僕は力の入らない足で何とか立ち上がると、怪物の対角線上に立った。ブロック塀に背中をぴたりと付け、怪物を睨むように見た。 「水沼さんなの?」  僕は馬鹿げた質問をしてみる。きっとパニックに陥っていたせいで水沼さんの幻聴が聴こえてしまったのだ。それに例え同じクラスだとしても、水沼さんと僕は2年連続で同じクラスだけど一度も喋ったことがないし、僕のことを認識しているかも怪しい。  そうだ、これは夢なのだ。都合の良い夢を見ているんだ。だって有り得ないのだから。怪物がこの世に存在していることも、怪物からあの可憐で華奢な水沼さんの声がすることも。 「分かるの?」  僕はぎょっとした。あの怪物は正真正銘の水沼さんだった。 「え、うそ、本当に? 水沼さん?」  水沼さんと名乗る怪物がこくりと頷いた。僕は信じられないという風に首を横に振る。信じたくなかった。あの水沼さんが、こんな怪物だなんて。 「そうか。分かった。これは夢だ。やっぱり夢なんだ。あの水沼さんが怪物な訳ない。あり得ないもんな! あっはっは!」  僕はパニックから回復するために、無理矢理笑い声をあげてみせる。世界的に有名なアニメーション映画作品にもあったように、大きな笑い声は怪物を遠ざけてくれる。 「夢じゃないよ、比嘉くん。比嘉清史郎くん」
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