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午前中に家庭教師の先生が来て勉強を終え、一息つく。
クライムには強制的に休憩を取らせ、サンルームでメアリーと他の侍女たちに囲まれのんびりお茶を楽しんでいた。
「それにしても昨日のクライム様は本っ当にカッコ良かったぁ~!」
メアリーが少しだけ席を外している間、今朝騒いでた侍女たちがうっとりしながら談笑し始める。
エヴァはクライムの話題に興味を惹かれつい耳を傾けた。
「あんた下町に忘れ物取りに行ってたんでしょう? 例の騎士の彼氏は一緒じゃなかったの?」
「もちろん一緒だったわ。でも暗くなった頃に急に吸血鬼たちが襲ってきて……彼ってばすごいへっぴり腰だったのよ!? 巡回中のクライム様がすぐに助けて下さらなかったら今頃あんな奴と死んでたわよ!」
「うわぁ~大変だったわねぇ……。それで彼氏と別れたわけ?」
「そうなの。だってクライム様の方が断然カッコいいんだもの! あんな素敵な騎士様が守ってくれるならそれだけでも働き甲斐があるわぁ~」
(クライムって……そんなにモテるんだ……)
お茶の香りを堪能するフリをしてクライムがそこまでモテてることに衝撃を受けるエヴァ。
侍女の噂話をここまで直接的に聞いた事がなかったから余計である。
確かに所作も普段の仕事ぶりも騎士として完璧だと思う。
背もスラっと高いし吸血鬼ハンターとしても一流だし、真面目で誠実だし顔もキリっとしててカッコ良い…………まぁ無表情で何を考えているのかわからないんだけど。
(うん、でも言われてみれば確かにカッコ良い――)
「あ~あぁ。三日後のお祭りにクライム様お誘いしちゃおうかな~」
ズキン――――。
あれ? と胸の痛みに違和感を覚える。
クライムがエヴァ以外の女性と歩いている姿を想像して、嫌な気持ちになるのはなんでだろう。
(だって私と行こうって誘ってくれた。私が誘われたんだもの)
「あら、クライム様はお嬢様をお守りする騎士よ? そんな暇あるわけないじゃないの」
「ん~そうよねぇ……。エヴァお嬢様ぁ~!」
モヤモヤした気持ちで考え事をしていたら突然呼ばれハッとして顔を上げる。
「な、なに?」
「三日後のお祭りの日ってエヴァ様お屋敷から出られないんですよね? その日だけクライム様を貸してくれませんか?」
「ク……クライムを……貸す?」
エヴァはお家の都合上、社交界に出る事がないので人付き合いが苦手だ。もちろん年が近い同性の友達もいない。エヴァにとって人と仲良くなるには時間が必要なのだ。
だからこうした図々しい態度の侍女の提案に、咄嗟の対処が出来ない。
(クライムは物じゃないわ……)
きちんと伝えて、ここは主人としてしっかり躾けないと。
そう思うのにぐいぐい来る侍女の圧についタジタジしてしまう。
「あんたたち、いい加減にしなさい」
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