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救世主が降臨した。
軽食を運んできたメアリーが凄く怖い顔で登場し、侍女達は今朝と同じ真っ青な顔になる。
「メアリー!」
「「メ、メアリーさん!」」
エヴァの目の前に軽食を置き、主人に頭を下げる。
「エヴァ様、侍女たちがご無礼を……申し訳ございません」
「メアリー。いいのよ、この屋敷で働いてくれる女性は貴重なんだし……」
「そ、そうですよね~エヴァ様! 昨日死にかけたんだし、多少優遇してもらわないと」
「お前は黙りなさい」
「ひっ」
メアリーは吸血鬼に見せるような冷たい顔で侍女を叱りつける。
普段明るく優しいだけに、本当に怖い。
「弁えなさい。クライム様は旦那様に認められたエヴァ様専属の騎士です。ひいては婚約者になられるかもしれないお方ですよ。誰に懸想するのは構いませんが、エヴァ様のご迷惑になるようなことは控えなさい」
「え、婚約者なんですかぁ!?」
「ブラックフォード家にお生まれになった女性は優秀な騎士、又は他家から婿を取るのが通例です。クライム様も候補であることは間違いないでしょう。ですからエヴァ様のご婚約者が決定されるまでは無暗に騎士と戯れるのは控えなさい」
「はぁ~い…………」
若い侍女は不満気な様子だ。
彼女には申し訳ないがエヴァは内心ほっとする。
(そっか……やっぱりクライムって私の婚約者候補だったのね)
ドキドキしながらメアリーの説教を聞いていたら、彼女は呆れた顔で振り向いた。
「お嬢様も、お優しすぎです」
「え、えぇ? 私が?」
歳が近そうな侍女とどう接していいのかわからなかっただけなんだけど……と戸惑いを隠せない。
「お嬢様が人慣れされていないのは知ってますが、もっと厳しく叱りつけていいのですよ。我々に遠慮や我慢は不要です」
「我慢……」
クライムも似たような事を言っていた。
そうなのだろうか……。自分の代わりに犠牲になるかもしれない人たちに気を遣うのは当たり前だと思っていたけれど。
エヴァが我慢さえすれば、何もしなければ誰も死なないと。
「あたしやクライム様はお嬢様にもっと自由でいてほしいのです。その為に騎士がいるのですから」
騎士。
エヴァの騎士。
(恐れなくていいと、そう言ってくれているの?)
”閉じこもっていろ――――”
”私がお嬢様を全力でお守り致します”
”自由でいてほしいのです”
「…………――――」
唇をキュッと噛みしめガタッと立ち上がると、エヴァは顔を上げた。
「ありがとう、メアリー。私決めたわ」
(ごめんなさい、お父様……私は――)
外の世界を諦めない。
自由でいていい。
少しの体験でもいいから――。
「――まずは三日後のお祭りに行くわよ!」
グッと拳を握りしめた。
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