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視線を追うと、全身びしょ濡れのクライムがこちらに向かって走って来るところだった。
「クライム!」
エヴァは嬉しい気持ちになると同時に、こんなにびしょ濡れになるまで探し回らせてしまい申し訳なく思った。
「お嬢様! 良かった……ご無事で!」
「はぐれてしまってごめんなさい。こんなになるまで探してくれてたのに……」
そう言ってハンカチを取り出しクライムの冷たい頬を拭う。
「私は大丈夫です。それより早く帰りましょう。風邪を引いてしまいます」
「ええ。あなたも早く帰って温まらないと……あ」
す、と静かにこの場から去ろうとする黒づくめの紳士の背に、ありがとうございましたと声をかける。
彼はピタっと止まり少しだけ振り向いた。
「ええ…………いずれまた…………」
クライムの目が見開かれる。
ドクン――――と跳ねる心臓。
「……ぐっ」
急に頭を抱えるクライムに驚くエヴァ。
「クライム!? どうしたの、大丈夫!?」
「…………大丈夫です」
息を整え顔を上げると、既に黒づくめの紳士はいなかった。
(あの男……どこかで――――)
「ちょっと待っててクライム。ここまで送ってくれた女性にお礼を言ってくるわ」
そう言って酒場のカウンターにいる先程の女性に挨拶を済ませたエヴァはすぐに戻ってきて、行きましょと声をかける。
「お嬢様、隣に並んでいた黒づくめの男性は……」
「え? ああ……赤い瞳が印象的な、親切な方だったわ。ほら、この花冠を拾って届けて……って、あれ?」
帽子にかぶせたはずの花冠を触るとくしゃ、という音がしたので見たらなんと――枯れていた。
「嘘……だってさっきまで綺麗に咲いてたのに」
「……吸血鬼……」
クライムが信じられないことを口にした。
「で、でもまだ一応昼間よね? いくら太陽が隠れているからって……」
「はい……。ありえないです」
では一体どういうこと?
益々混乱する頭で考えても今は時間が惜しい事に気が付いた二人は、答えの出ないこの現状を一旦置いといて急いで正門に向かう事にした。
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