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第4話【目覚め】
※吸血鬼との戦闘で多少残虐シーンがあります。苦手な方は注意。
雨はまだ降り続いている。
正門横の厩舎に預けていた馬を迎えに行こうと路地裏を抜けて広場へ出ると、先ほどまでの人混みが嘘のように疎らに散っていた。
すると風に乗って雨の匂いと焦げた匂いが鼻につくことに気付くエヴァ。
(焦げ?)
匂いの方向を見ると黒い煙が上がっていて何やら騒がしい。歓声というよりこれは――――。
「きゃあああああ」
「わああああ助けてくれぇぇぇ!!」
パニックを起こした人々が悲鳴を上げながら何かから逃げていた。
「あれは……っ」
「お嬢様!」
奥に見えたのは聖騎士団と、赤い目を光らせた夜の化け物――――。
(嘘! どうして!?)
吸血鬼――――。
雨が降り注ぐ中吸血鬼の群れが人を襲っている。それに対抗する聖騎士団たち。
ありえない光景だった。王都は吸血鬼との《共存協定》のおかげで人が襲われる心配はないはずだ。それに野良吸血鬼避けの結界も貼ってあるはずなのに。
(一体なにが起こっているの? まさか……また私の血のせいなんじゃ……)
「お嬢様! 今はあれこれと考えている場合ではないです。この場は聖騎士団にお任せして我々は一刻も早く帰りましょう!」
クライムは真っ青になるエヴァの腕を掴むと半ば引きずるように厩舎へ向かった。
エヴァを抱えてすぐに馬を走らせる。辺りはもう暗くなってきていた。
震えるエヴァを抱きしめ馬を飛ばす。
(馬に休憩させる暇があるか……お嬢様は必ずお守りしなければ)
逸る気持ちの中一通り走らせるとさすがに馬がバテテきてしまった。
もう空は暗いがここら辺に村はないので馬の交換が出来ず、泣く泣く一旦休ませることに。
川の近くの大きな木の傍で馬を休ませ、自分達も濡れてなさそうな木の下へ。
雨はもうすっかり止んでいるがエヴァの身体が冷たかった。
「お嬢様、もう少しの辛抱です。寒ければ私の傍に」
「あ、ありがとう……」
さすがに寒すぎたのでお言葉に甘え、クライムが腰を下ろす足の間に入り、腕の中に包まれる。雨のせいで燃やす物が無く火が使えないから仕方ないのだ。
ぎゅっと背中から抱きしめられ、クライムの清潔な香りがしてドキドキするエヴァ。
(わ、私が風邪をひかないようにしてくれてるだけよ! 変に意識しちゃダメよ私!)
ぷるぷる震えているのは寒さと緊張からだったが、クライムは寒さによるものだとだけ思ったらしい。熱を生み出そうと優しく肩をさすってくれた。
瞬間、「ほわぁっ!?」という奇声と共にビクッと跳ねる。
「申し訳ありません、痛かったですか? くすぐったかったですか?」
「ちちち違うの。うん、そうくすぐったくて! でも温かくなったわありがとう」
「? それなら良かったです」
濡れた服越しで少々冷たいとはいえ、慣れない距離感で触れ合っているので緊張しないわけがない。意識しないわけがない。
ドキドキしているおかげで血色が良くなったエヴァを見つめるクライム。
ほんのり赤く染まった白いうなじを凝視していることに彼女は気が付かない。
ドクン、ドクンと脈打つ血潮を想像し、無意識に喉を鳴らす。
「……っ!」
バッと口元を手で覆いうなじから目を背けた。
(俺は――今何を考えていた……?)
ズキンと痛む頭。先程エヴァの傍にいた黒づくめの紳士を思い出す。
ドクン、ドクンと脈打つ音は自分の心臓か、あるいは目の前の――――。
ヒヒィン――!
「!」
エヴァとクライムは同時に馬の嘶きが聞こえた方へ眼をやると、そこには人の姿が……いや。
「ブラックフォードの娘、いた」
「いた」
赤い目を光らせた吸血鬼が五人、こちらに向かって来た。
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