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第5話【ダンピール】
二人で屋敷に着いたのは結局夜になってからで、エヴァと入れ替わっていたメアリーには心底心配された。抜け出したのを知っている彼女にだけクライムのことは省き吸血鬼に襲われ遅くなったと説明した。
帰る道中エヴァもクライムも無言だった。
なんて声をかければいいのかわからなかったから。
(まさかクライムが……吸血鬼だったなんて……)
正直とてもショックだった。父に拾われてエヴァの騎士に就けられてからずっと一緒にいるが、昼も夜もほぼ一日中一緒にいたのに全く気が付かなかった。
太陽光は平気そうだし、エヴァと同じように普通の食事をしていた。
唯一の違和感も、他の騎士の誰よりも優秀で強いことくらい。
(それがつまり……そういうことだったのかしら)
エヴァの知らないところでいつの間にか特別な吸血鬼に咬まれ、変異していたのだとしたら。
あの時、吸血鬼を倒したクライムはゆっくりとエヴァに近づいた。
いつもなら頼もしいはずの差し出す手に恐怖を感じてしまい、思わず後ずさる。
それを見たクライムは一瞬傷ついたような顔をして――。
『クライムっ……違うの、これは』
『いえ……怖がらせてしまい申し訳ございません』
目を逸らした彼の横顔は寂しそうで、エヴァは彼を怖がってしまったことに罪悪感で胸が締め付けられた。
(あなたは私を守ってくれたのに……それなのに私は……)
それでも恐怖は拭えない。カタカタと震える身体が言う事を聞いてくれない。
二人とも無事で良かったという安堵と、目の前の絶大な信頼をおいていた相手が吸血鬼だったというショック。
でもクライムは、普通の吸血鬼とは違う。
わかってる。何も変わっていないだろうことが。
『明日、旦那様が帰宅されたら報告致します。おそらく私は処分を受けるでしょう』
『! そんな……っ』
『こうなったのは全て私のせいです。それに自分が吸血鬼だったことも……初めて知りましたし、このままお嬢様のお傍にいてはいけない』
そう言って寂しそうに笑った後、避難していた馬を連れてきて優しく宥めた。
エヴァが何も言えないでいると、失礼致しますと馬の上にひょいと乗せられる。
『早く帰らないとメアリーが心配してしまいますので、少しの間だけ我慢して下さい』
自身も後ろに跨ると、エヴァの身体が恐怖と緊張で固くなっているまま無言で馬を走らせた。
なるべく身体が触れないようにエヴァを抱え込み、ただひたすら前だけを見て。
『俺は…………化け物なのでしょうか…………』
数日前の彼の言葉を思い出す。
今ならもう”そんなことない”と言えなかった。
昨日までの自分なら迷いなく言えたかもしれないのに。
(あなたは吸血鬼になってしまったの? それとも――)
不安と疑問と恐怖と、確かな安堵に包まれながら夜道を駆けていった。
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