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第6話【怖くないわ】
汗で貼りつく布、じわじわと蝕む暑さが本格的な夏の訪れを告げていた。
屋敷のガーデンにあるお気に入りのガゼボが日差しを防いでくれているが、風が既に生温かくて黙っていても汗が噴き出た。
「う~~~~暑い……」
パタパタと無意味に手で仰いでいたら、サッと侍女のメアリーがグラスを渡してくれた。
「エヴァ様、冷たいレモン水をどうぞ」
「ありがとうメアリー。頂きます」
ぐびぐびと一気に飲み干し、周りにいる騎士達にも水分補給を進めた。
「メアリーも遠慮なく水分補給してね」
「はい、ありがとうございます」
いつもと変わらない日常。平穏、お昼休み。
けれどここに彼だけがいない。
読みかけの本の内容も頭に入ってこない程に、エヴァの頭はクライムでいっぱいだった。
(あれからまともに話せてない……)
父の命令で直ぐに野良吸血鬼の討伐に駆り出されており、しばらく会話どころが会うこともできなかった。
正直寂しい。ずっと傍にいてくれて当たり前の存在だったから。
父は父でお祭りの吸血鬼騒ぎの後始末に追われていて、連日留守にしているので状況があまりわからないのだ。
(完全に私の護衛を外れた訳じゃないから良かったけど……また話せる機会があるよね?)
ちゃんと謝りたいと思っていた。彼を拒絶してしまったことを。
”人間でいたい”と言っていた彼の心を傷つけてしまったことを。
(自分を責めてないか、きっと私に気を遣って避けてるんじゃないかって考えてしまう)
エヴァは無意識に母の形見のネックレスをぎゅっと強く握っていた。
「とにかくまずは謝らなくちゃ」
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