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夕方部屋に戻り、冷たいタオルで身体を拭いた後新しいラフなドレスに着替えていると、メアリーが慌てた様子で入ってきた。
「お嬢様! クライム様がお戻りになりましたよ!」
「! すぐ行くわ」
地方まで聖騎士団の一人として派遣され、野良吸血鬼を狩る任から帰って来たらしい。
クライムは他の騎士と違い宿舎ではなく屋敷内に一人部屋をもらっており、幼い頃から何度も押しかけていたので慣れた足取りで向かう。
コンコン、とノックをするとすぐに顔を出してくれた。
「エヴァ様……」
「クライム、久しぶりね。お疲れのところ申し訳ないんだけど、今いいかな」
少し躊躇ったあと、それでも「どうぞ」と入れてくれたので今まで通り遠慮なく入らせてもらった。
扉を半開きの状態でこちらを振り向いたクライムの顔は、心なしかやつれて見えた。
任務から帰って来たばかりだから当然かもしれなかったが案の定疲れが色濃く出ていて、エヴァはますます申し訳なくなる。
(早く要件を済ませて休ませてあげなきゃ)
「あの……こないだのことなんだけど……」
「?」
無表情で首をかしげるクライム。罪悪感を感じながらもお祭りの夜に助けてくれたことを説明すると、「ああ……」と少しぼんやりした様子で返事をした。
「気にしないで下さい。あの時は私も……自分自身に戸惑っていましたから。それにエヴァ様の幼少の頃の出来事を思えば、吸血鬼に対する恐怖は至極当然のことです」
「そ、そうかもしれないけど……違うの! ごめんなさい、私はあなたを傷つけたかった訳じゃなくて……」
「いえ、謝る必要はありません。私こそエヴァお嬢様を傷つけたくないのです。それより、もうこうして気軽に異性の部屋に入ってはいけません。旦那様は私が必要以上にお嬢様のお傍にいることを望んでおりませんので」
その言葉に、部屋の扉を開けている理由を話しているんだと気付く。確かに今まではクライムなら密室で二人きりなのを許されていた。おそらく最有力な婚約者候補だったから。でも今は――?
エヴァは自分の意思を無視して話を進めていることに不満を抱いた。
「そんなの……っ、お父様が勝手に決めたことじゃない!」
「いいえ、エヴァお嬢様。これは私も納得していることなのです」
クライムは真っ直ぐにエヴァを見つめる。その瞳の奥には確固たる決意が窺え、どう言ってもエヴァの気持ちは伝わらない気がした。
(これ以上無理に私の謝罪を受け入れさせ、今まで通りにしてほしいと言っても困らせるだけ……かな)
「…………わかった。疲れているところ急に押しかけてごめんなさい」
「大丈夫です。私の方こそ、ご挨拶に伺えず申し訳ありませんでした」
「もう任務は落ち着いたの? 明日は屋敷にいてくれる?」
「はい。数日で地方の野良は結構片づけたのでしばらくは安全でしょう。明日からまた通常任務に戻っていいと言われました」
「そう……嬉しい。でも無理はしないでしっかり休んでね」
また明日から一緒にいられると知り思わず笑みがもれる。クライムはそんなエヴァの笑顔に一瞬息を呑んだ後、サッと顔を背けた。
「じゃあ、また明日ね」
「はい、必ず」
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