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パタン、と閉じた扉の向こうに消えたエヴァを想いしばらく黙って佇んでいたが、ふいにクライムは自身の喉を押さえる。
「…………渇く……」
懐から取り出したのは今朝支給された血液の入った瓶。
聖騎士団にも自身がダンピールであることは秘密になっている。エイブラハムが口外を一切禁止したので知っているのはエヴァとクライムとエイブラハムの三人だけ。どのみち太陽が平気なダンピールだから早々気付かれることはないだろう。
あの夜目覚めたのは吸血衝動だけではない。生まれ持った吸血鬼のみが扱える魔法も使えるようになっていた。
本来魔法は自然の力を借りて使うものだが吸血鬼の扱う魔法は違う。自身の血を操る魔法だった。
クライムが無意識に使った魔法は赤黒く輝く血の刃で、知る人が見ればすぐに吸血鬼だとバレるだろう。その為人目につかないよう単独で行動するか、魔法を使わず戦うしかない。
血の摂取もそうだ。
人目についてはいけない。
取り出した瓶のコルクを抜き、グイっと仰ぐようにして口に含む。
「……っ!」
カシャン! と瓶が割れる音が響いた。
口を押さえてよろめき、おえ、と血を吐き出すと、ベッドサイドにある水差しを一気に仰ぎ水を飲み干す。
「はぁ……はぁ……」
傍にある鏡を見ると、二つの赤い光。
青白くやつれた顔、口に見える二本の犬歯。
それらが間違いなく吸血鬼だと物語っており、クライムは拳を振り上げパリンッと衝動的に鏡を割った。
喉の渇きが満たされない。
心が、自分を吸血鬼だと認めていない。
人の血を飲みたくない。
それなのに――――。
「…………エヴァお嬢様……」
彼女を見たら、彼女だけが。
とても美味しそうなのだ。
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