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夜も更けた頃。こっそり部屋を抜け出したエヴァは、薄い寝間着のままクライムの部屋へ向かう。
既に緊張で胸が張り裂けそうだった。
昨夜クライムに異性の部屋に入るなと注意されたばかりで、追い返されるかもしれないという不安もある。それでもエヴァはどうしても行かないとダメだと思った。
コンコン、となるべく静かに扉をノックするが返事がない。
心配になったエヴァは恐る恐るノブを回すと鍵が開いていたので静かに入った。
室内に充満する血の匂い。思わず「うっ」と顔を顰める。
苦し気な吐息が聞こえる方へ向かうと椅子にもたれかかったまま口を押さえる彼の姿。
「……クライム……?」
彼の足元には血液が入っていたであろう瓶が転がっていた。中身は全て床にぶちまけられている。
(あれが……お父様から支給された……)
ショックだった。けれど仕方ないのだ。
彼には今最も必要なものだから。
(大丈夫、怖くないわ)
胸の前で拳を握りしめ、深呼吸をひとつ。
静かに近づくと、震える彼の肩に触れる。
一瞬ビクッとした彼は顔を向けぬままエヴァの存在を認識した。
「…………あれ以来……誰の血も受け付けないのです」
「…………ええ……」
床に広がる大量の血と、彼が口元を隠す手に付着する血がそれを物語っていた。
「俺は……人間でいたいです」
「あなたは今までと変わらないわ」
「……いいえ」
ゆっくり顔を上げエヴァと目が合うと、その目はいつもの金色からすぐに赤い輝きへと変化した。
エヴァが大嫌いな、吸血鬼の。
でも彼は違う――――。
「俺は、化け物です……エヴァお嬢様の血だけが欲しい。貴女の血だけが」
そう言ってエヴァの細い肩を包み込むように抱きしめる。
吐息が首にかかると、ゾクっとした何かが駆け巡った。
悪寒ではない、初めての感覚。
「……っあ」
ぴちゃっと首元を舐められゾクゾクとしたものが駆け上がる。
(恥ずかしい……けど)
嫌じゃない。
エヴァは彼を抱きしめ返した。
はぁ……と熱い吐息をかけられる。
(彼に――クライムに求められている)
全身が歓喜で満たされた。
ちゅ、ちゅ、と繰り返し首元にキスをされる。
いくらエヴァを求めていても主の許可なしに傷つけようとはしない。
心臓がバクバクうるさいなか、耳まで真っ赤になったエヴァは、首元を愛撫する彼に求める言葉を与えた。
「私の血を――――飲んで、クライム」
瞬間、ぶつり、と引きちぎられる柔肌。
痛いのは一瞬だけ。
じゅる、じゅるる、と自分の血が啜られる音を聞きながら、エヴァは彼が触れる全ての場所から快感が駆け巡るのがわかった。
唇や舌の感触、肩から腰をギュッと抱きしめる腕や手の感触が愛しい。
(大丈夫……怖くないわ)
彼だけは特別だから――――。
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