第7話【婚約者候補?アレクシス】

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第7話【婚約者候補?アレクシス】

 翌朝。  首元の傷を隠すためリボンで飾りをつけ、それに合わせたデイドレスにしてもらい午前を過ごしていたら、予告のない来訪があった。 「アレクシス・カークランド様……?」 「は、はい。まだ王都にいらっしゃる旦那様からの手紙を持参されており、お嬢様に婚姻を申し込む許可を頂いたと……」 「なんですって?」  カークランドという名字はどこかで聞いたことあるようなと記憶を巡らせたが、社交界に出る機会がなく家庭教師からしか情報を得ることのないエヴァにはピンとこない相手だった。    そもそもあの厳格な父であるエイブラハムから許可をもらったことに驚くと同時に、父がクライムを婚約者候補から明確に外したことを理解しショックを受ける。  屋敷に長年勤める者ほぼ全員がその認識だったらしく、老執事も若干狼狽えながら客人が待つ応接室へとエヴァを案内した。     部屋の前には既にクライムが待っており、いつもどおり無表情のままエヴァに挨拶を済ませると二人で部屋に入る。 「や~や~これはお美しい!」  入って早々、焦げ茶色の長髪を青いリボンで結んだ一見柔らかそうな雰囲気の若い紳士が立ち上がるなり、まるで演劇のような大袈裟な動作で両腕を広げた。  エヴァの手を取り手の甲に唇を落とす紳士の挨拶をすると、藍色の瞳を細めニコっと人懐こい笑みを向ける。 「初めまして、エヴァ嬢。僕はアレクシス・カークランド。王立魔法研究所で魔法を研究している者だ。この度は突然の訪問にも関わらず迎え入れてくれて礼を言う」    ただでさえ人見知りのエヴァは初対面でぐいぐい来る彼に顔を引きつらせながらも、頑張って淑女の笑みで応えた。 「は、初めまして……。ブラックフォード伯爵の娘、エヴァと申します。王立魔法研究所……のお方なのですか?」  エヴァの記憶では王立魔法研究所といえば国唯一のエリート魔法使いが集う場所でローブを着ているらしいが、見れば一見(くらい)の高い貴族のような姿なので情報と違い混乱する。 「父はカークランド侯爵でね。僕はその三男なんだ。だからこうして好きな仕事をしていられるという訳さ」 「こ、侯爵家の方……! 失礼致しました」    慌てて距離を取り慣れないカーテシーをすると、アレクシスは「お気になさらず」と笑ってくれた。  どうやらあまり貴族のマナーに厳しい(たち)ではないようで安心したが、格上の貴族が一体自分に何故……? と混乱を隠せない。 「僕の研究分野は主に吸血鬼のことでね。先日君の父君であるブラックフォード伯爵と祭りの事件を一緒に捜査していてたまたま君の話を聞いたんだよ。それで僕は君の血に興味を持ったんだ」 「私の血、ですか?」 「そうさ! 吸血鬼を魅了、惹きつけるなんて実に羨ましいじゃないか!」 (羨ましい……ですって?)
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