18人が本棚に入れています
本棚に追加
/39ページ
第8話【お見合いパーティー】
「パーティー……ですか?」
「ああ。来月のお前の誕生日にうちで夜会を開きお前の婿探しをしようと思ってな。既に招待客は決めてある」
「……急ですね。先月一人来たばかりだというのに……」
「アレクシス殿か? あれはお前には合わんだろう。だが役に立ちそうだったからな。次はもっとマシな男を見繕うから安心しろ」
(なんで今更……)
また久しぶりに父の執務室に呼び出されたと思ったら開口一番”見合いパーティーをしろ”で、エヴァは内心不満だった。
家の都合上吸血鬼に狙われるのを防ぐため、デビュタントどころか社交界にすら出たことがない。
そんな自分がいきなり婿探しとは……。
(絶対に上手く話せないわ……)
「クライムでは駄目なのですか? 今までは彼が婚約者候補だったのでは?」
「そうだ。だが事情が変わった。わかるだろう? 半分でも吸血鬼はダメだ」
そんなことは気にしないと言おうとしたが、父が本気でエヴァの心配と幸せを願ってると知っているので強く言えない。
実は自ら血をあげてますなんて言おうものなら卒倒してクライムを今度こそクビに……いや、下手したら討伐されてしてしまうかもしれない。
エヴァが何も言えないでいると不審に思ったのか、父は「まさか……」といぶかしむように尋ねる。
「惚れているのか?」
「!」
その言葉に一瞬ドキっとしたエヴァは、自分の気持ちをなんて答えようかと考える。
「まぁ……元々最有力の婚約者候補だったんだ。オレがそうなるような環境を許したんだし、別におかしなことじゃない。……だがな」
エイブラハムは頭をボリボリかきながら気まずそうに言った。
「お前は昔から身近にいる異性をクライムしか知らないから依存してるだけかもしれんぞ。だからこれを機に他の男にも目を向けてみろ。いいな」
「………………はい、お父様」
何も言い返せなかった。
実際その通りかもしれなかったから。
これは恋なのかわからない。未熟なエヴァにはどういうものか、まだよくわからないのだ。
執務室を出るとすぐそこにクライムがいて心臓が跳ね上がる。
「ク、クライム……! ひょっとして、聞こえてた?」
「はい。……耳が良いので」
「そ、そう……」
気まずそうに眼を逸らすと、相変わらずの無表情のままクライムが言った。
「旦那様のおっしゃることは正しいと思います」
「…………どういうこと?」
エヴァは信じられないような顔で彼を見る。
「私はダンピールです。……お嬢様には相応しくありません。それに私のような得体の知れない元孤児よりも、身分が高い貴公子との結婚の方が幸せになれるでしょう」
身分――。エイブラハムもエヴァもそんなことは一切気にしないと知っていて、クライムはあえて突き放した。
エヴァが望む幸せなんて知らないくせに。
怒りがふつふつと湧いてきたエヴァは、視界が涙で滲むのを感じて大声で叫ぶ。
「クライムのバカ!!」
バタバタと足音を立てながら自室へと走り、途中家庭教師の先生に走るなと怒られたが無視して部屋に入った。
そのまま入口にずるずると座り込むと、膝を抱えて蹲る。
自分でも何で悲しいのかわからない。
何がショックなのかわからない。
他の男性を勧められたから?
思い出されるのはクライムと今まで一緒に過ごした温かい記憶ばかり。
お祭りでデートしたこと、いつも迎えに来てくれたこと、たまに笑ってくれること。
十歳の頃からずっと傍で守ってくれたエヴァのヒーローだった。
常に主従の距離を保ち面倒見の良い兄のような存在。
――――本当に?
エヴァは自問自答を繰り返しながら無意識に首のリボンに触れた。
初めて血を分けたあの夜を思い出す。
首に触れる熱い唇、なまめかしい舌。
自分を求める欲望に染まった瞳を。熱を。身体を。
「…………っ」
その瞬間、カッと顔が赤くなり心臓が早鐘を打ち始める。
ああ――これはもう、分かってしまった。……でも――――。
「……今更気持ちを自覚したって……もう遅いじゃない…………」
最初のコメントを投稿しよう!