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「エヴァ嬢、お誕生日おめでとうございます。お噂通りお美しい……」
「エヴァ様、おめでとうございます! じ、自分は聖騎士団第二に所属しております」
「エヴァ嬢、初めまして。なんと麗しい。僕はクレール領にあるレアンドル伯爵の……」
父のエスコートで夜会会場のホールに入場した途端、父が厳選した婚約者候補たちに取り囲まれてしまい、エヴァはとても困ってしまった。
この日のために用意した白いドレスは、首元から胸元にかけて大きく開いているもの。
肩を包む小さな袖、腰の細さを強調したウエストラインから下のふんわり膨らんだスカートは、薔薇のレースの刺繍で彩られている。
母の形見の赤いネックレスと首には白い薔薇とレースのリボンで飾り付けられ、エヴァの赤い髪に映えたデザインだった。
「あ……ありがとう……ございます…………」
最後は消え入りそうなくらい小さいトーンになり俯きながら委縮してしまう。
ずっと緊張しっぱなしで練習してきた淑女の仮面が全くつけられない。
十七年間生きてて自分の屋敷で行われる初めてのパーティーなのだ。緊張しない方が無理があるだろう。
婚約者候補たちは皆こぞってエヴァの容姿を褒め称えるが、お世辞なのか物珍しさからなのか分からなくて素直に喜べないでいた。
それに”吸血鬼に好かれる乙女”に興味がある稀有な青年たちが意外にも多かったようで、エヴァは心底驚き嫌な気持ちになった。
エヴァを生涯守るために父が厳選した騎士団内の身内の独身者が多いとはいえ、これでは見世物ではないかと思わざるを得ない。
「エヴァ嬢、あのいかつい団長の娘とは思えないほどお美しいな」
「ああ。まさに深窓の令嬢って感じだ」
「あの男慣れしてない様子も庇護欲をそそられる……」
不慣れな社交も相まってエヴァの性格を勘違いする者も多く、誰も自分を見てくれていないようで悲しくなった。
(全然そんな性格じゃないわ……)
無意識にクライムを探してしまう。
まだ彼には”おめでとう”と言われていない。
一方的に罵ったあの日以来気まずくてなかなか顔を合わせられない日が続いていた。
クライムもクライムでまだ定期的に野良吸血鬼討伐に駆り出され不在の時が多かった。おそらく父があえて二人の距離を置かせたのだろう。
そうして迎えた誕生日の日、エヴァは笑顔の裏に悲しみを抱えながら、与えられた役割をこなす。
機械的に苦手な社交をしているところ、馴れ馴れしい男が一人。
「や~や~エヴァ嬢! この度はお誕生日おめでとう!」
「…………アレクシス様……」
まるで古い友人のように馴れ馴れしく話しかけてきたその男を見てエヴァは更にげっそりする。
「おやおや、お疲れのようだね。どうだい? バルコニーに出て一旦外の空気を吸いに行くのは?」
アレクシスの手を取るのは嫌だったがこの場から解放されたいのも事実だったので、仕方なく彼の提案に乗った。
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