第8話【お見合いパーティー】

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 夜風が気持ち良い。  住み慣れた自分の屋敷で行われるパーティーのはずなのに、エヴァはとても居心地悪く感じていた。  どこに居ても知らない場所にいるような――。 「今日はいつもの黒い騎士君はいないのかい?」  隣に並んでいるアレクシスから意外な質問をされ、エヴァは思わず目を丸くする。  この人も他人を気にするんだ……? という目で見ると、彼は苦笑いして肩をすくめた。 「心外だなぁ~。僕だって一応色んな人間に興味を持つよ? もっとも騎士君のことを訊いたのは、今この場にいられると不都合だから……なんだけどね」 「……どういう意味ですか?」  その言葉に嫌な予感しかしないエヴァは、不安げな表情で一歩下がる。 「そんなに警戒しないでおくれよ。ただ君に、きちんとプロポーズをしたいだけさ」  アレクシスはその場に(かしず)くと、エヴァの手を取り高価そうな指輪を見せてきた。  驚いたエヴァは距離を取ろうとするが、彼の手に捕らえられ動けない。 「ちょ……っ、困ります。私、あなたとは……無理です……!」 「どうして? 僕は君を永遠に愛すよ」 「あ、あなたが愛してるのは私じゃなくて私の体質です!」    立ち上がったアレクシスはエヴァを抱きしめようと距離を詰めてきた。  肩をグッと抑えられ顔を近づける彼にゾッとする。  離れようともがくがエヴァの力ではビクともしなかった。 (む、無理……気持ち悪い!)  クライムに触れられるような安心感や心地よさは一切無く、ただただ嫌悪感だけが走る。  静かなバルコニーを選んだので会場から少し離れているのが仇となってしまった。 「確かに君の体質が一番欲しい。でもそんな体質を持つ君だからこそ愛せるんだ」  自己本位の歪んだ愛を囁く彼の言葉はエヴァの心には響かない。  青い顔で嫌々と首を振るエヴァを無視してアレクシスはゆっくりと顔を近づけてきた。  キスされる――! と思った瞬間。  後ろからぐいっと引っ張られ身体が浮き、アレクシスとの距離が空いた。  見上げれば、ずっと焦がれていた黒い騎士がエヴァを守るように抱きしめていて。 「……クライム……」  慣れ親しんだ力強い腕と清潔な香り、包み込む熱に安堵したエヴァは全身の力が抜けそうになった。  抱きしめる腕にぎゅっと力をこめたクライムは、目の前の男に冷たい目を向ける。 「アレクシス様……お戯れが過ぎます。これ以上お嬢様の嫌がることをされるようでしたら、私が力づくであなたを追い出します」  いつもよりも低い声で警告する様子に、エヴァはクライムが自分のために怒ってくれていると気付く。  射抜かれたアレクシスは肩をすくめると、やれやれと両手をあげた。   「はいはい。確かに戯れが過ぎたようだね。フラれちゃったことだし素直に退散するよ」  相変わらず全く悪びれた様子を感じさせないまま、大人しく会場へ戻って行った。
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