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クライムは立ち上がると懐から懐中時計を取り出し確認した。
「そういえば本日旦那様が夕食までにはお戻りになるようですよ」
「本当!? 一週間ぶりかしら! お会いできるのが楽しみだわ」
父エイブラハムは王都で吸血鬼や魔物を対象とした治安を守る聖騎士団団長を務めており、基本的にあまり屋敷にいない。
だから少しでも家族に会えることがエヴァはとても嬉しいのだ。
本をバスケットに入れるとクライムが持ってくれたので、部屋に戻るため立ち上がる。
すると近くから庭師と男性メイドが楽しそうにお祭りの話しをしているのが聞こえ、エヴァの表情が固まった。
「……もう少しで王都の城下町でお祭りが開催されるのね」
「そのようです」
暗くなりそうな気持ちを誤魔化すように小さくかぶりを振ると、パッと顔を上げる。
「お父様が帰って来たら沢山お話ししなくちゃ! 行きましょクライム」
「……かしこまりました」
彼は黙って従ってくれた。
本当は羨ましくてたまらないことを知りながら。
母が亡くなってからしばらくは屋敷に引きこもっていたエヴァだったが、外の世界への憧れは消えなかった。
いつかこの血の呪いが解ける時が来るか、もしくは吸血鬼がいなくなればあるいは――。
はぁ……とため息をつく。そんな現実が訪れることがないのを理解しているからだ。
(お祭りってどんな感じなのかしら。本でしか知らないから自分の目で見てみたいわ。友達も欲しいし……海も見てみたい)
でもそれは許されない。
自分の行動のせいで大切な人を亡くしてしまったのだから。
いくら吸血鬼を憎んでも、所詮エヴァは獲物側だ。
部屋に戻り窓から見える王都を寂しそうに見つめるエヴァを横目で確認した後、クライムは静かに部屋から出て行った。
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