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就寝前。すっかり日が落ちて辺りは真っ暗だ。
自分でも分かっていたことだったが夕食時に父にも釘を刺されてしまい、お祭り時は毎回気分が落ち込む。
(今回も誰にも迷惑をかけないよう部屋に引きこもっていなきゃ。今のうちに新しい本を注文しておこうかな……)
そう考えていると、コンコン、と扉がノックされた。
こんな時間帯に誰かしら? と思いながら近づくと、聞き慣れた涼やかな声が聞こえた。
「お嬢様、エヴァお嬢様。まだ起きていらっしゃいますか? クライムです」
「クライム? こんな時間に一体……!」
迷わずドアを開けると、彼の姿に言葉を失う。
うっすらだが至る所に血がついていたからだ。
「お見苦しい姿をお見せして申し訳ありません。先程見回りをしていたところ、屋敷の結界の外に奴らがいたため始末してきました。それとは関係ないのですが、今少しだけ宜しいでしょうか?」
「それはもちろんだけど、その前に手当をしましょう! 早く入って!」
彼は苦しそうに息を乱していた。こんな姿を見るのは初めてだ。
無理矢理部屋へ引き入れようと腕を取る。
「いけません。私は大丈夫ですから……」
「いいから! 私が手当してあげる!」
遠慮する彼を無視して長椅子へ導く。
抵抗するのをやめたらしいクライムの傍に近寄り、上着を脱がそうとするとやんわり制止された。
「軽く腕を噛まれただけです。それと苦しいのは怪我のせいではないのです。少し頭痛がするだけで……」
上着を脱いで袖をまくると手首に痛々しい牙の痕があったが、既に血は止まっていた。
エヴァはアルコールで消毒し、清潔な布と包帯を巻いていく。
「小さい頃に外で遊んでてよく怪我をしていた甲斐があったわ。あなたの見様見真似だったけれど手当の仕方は完璧よ」
「……ありがとうございます」
クライムは微かに微笑みながら頭を押さえていた。
「頭痛薬を処方してもらった方がいいかしら……お医者様の手配となると明日になってしまうかも……」
「いえ、ご心配には及びません。おそらくこれは……私の記憶に関わるものかもしれないので」
「クライムの……記憶?」
「最近になって……気付いたのです……」
クライムは頭を押さえながら恐る恐るといったように口にする。
「奴らを倒す度に、記憶が戻りそうになる度に、自分の身体が人間離れしてきている感覚があるのです」
そう言って彼は自身の両手を見る。まるで確認するかのように。
「俺は…………化け物なのでしょうか…………」
ハッとしてエヴァはクライムを見た。
初めて聞く彼の弱音に、胸が苦しくなる。
エヴァの為に吸血鬼を狩るクライム。
化け物を狩る自分もまた、化け物だと思っているのだろうか。エヴァがそれを望むから――。
「……俺はお嬢様の……ヒーローでいたいです」
「クライム…………」
彼が何に悩んでいるのかは理解出来ない。でも……ひとつ確実に言えるのは――。
「あなたは私のヒーローよ」
そう言ってギュッと抱きしめると、まるで触れられるのが恐ろしいかのようにビクッとする身体。
しかしすぐにパッと起き上がり、クライムは何事もなかったかのようにエヴァから距離を取った。
「失礼致しました。記憶が戻りそうな頭痛に少々動揺しておりましたが、もう大丈夫です」
その不自然な距離の取り方に、エヴァも必要以上にクライムに触れていたことに気付き急に恥ずかしくなる。
「こ、こっちこそごめん……っ。そ、それより何の用事だったかしら?」
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