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つい先程カフェで出会った男性は、黒い革靴を履いていた。ホストという職業に似つかわしい、とても高級そうな革靴だった。
コツコツという音が止んだかと思うと、俺は自分のすぐ背後に人の気配を感じていた。つい先程まで向かい合っていたはずなのに、俺は後ろを振り返れずにいる。
相変わらず背後では、妻の好きな女性シンガーの歌声が響き続けている。俺が徐ろに携帯の発信を止めると、それと連動するように歌姫が歌うことを止めた。
「修吾さん?」
自分を呼ぶ声に恐る恐る振り返ると、満面の笑みの春樹が立っていた。そして、何も言えずにただ立ち尽くす俺に向かって、春樹は言葉を続けた。
「良かったですね。今夜はよく眠れそうですよ」
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