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間もなく、注文の品が届いた。透明なグラスさえも染め上げてしまうのではないかと思わせる程に、中の液体は黒い。正に名に恥じぬ存在、ブラックコーヒーだ。
「お待たせいたしました」
「ありがとう。お兄さん、ここの店主?」
「はい。そうですが」
「何でこんな時間に営業してるの? 客なんてほとんど来ないだろ?」
「それは、真夜中に誰かにとっての居場所を作りたかったんです」
「誰かにとっての居場所?」
「はい。真夜中って何か物寂しい感じがしませんか? そんな時に気軽に来れる場所があってもいいのかなって思ったんです。ありがたいことに、毎日誰かしら来てくださるんですよ。今日はお客様が来てくださいましたし」
そう言うと、店主はニコリと笑った。
「奇遇だな。ちょうどそんな場所が欲しかったんだ。ありがとう」
俺の言葉を聞いた店主は、笑みをより深めながら一礼してその場を去っていった。
コーヒーを啜りながら静かに時間を過ごしていると、店のドアが開く音が聞こえた。
俺と同じように物好きな人間がいるんだな、とほくそ笑んでいると、先程俺が来店した時と同じ言葉がカウンターの奥から聞こえてきた。
「お好きな席にどうぞ」
入ってきた客に視線を向けると、白に近いぐらいの明るい金髪と、透き通るほど真っ白な肌が目に飛び込んできた。
一瞬、女性かと思わせるぐらいの美男子だった。自分とは似ても似つかないほどの造形美に圧倒されていると、その男性はズンズンとこちらへ近づいてきて、俺の目の前までやってきた。
男性は、呆気に取られている俺を見ると、満面の笑みを浮かべながら話しかけてきた。
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