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そのコンビニには静かな音楽が流れ、商品もきれいに並べられていた。外はまだ朝日が薄く、町はまだ眠っているようだった。
店の自動ドアが開く音がし、若い女性が入ってきた。彼女はまだ寝ぼけまなこで、朝食用のパンとコーヒーを手に取った。レジに向かうと、そこで働く男性店員が元気に声を上げた。
「へいらっしゃい!」
その瞬間、女性も、店員自身も驚いた。二人の間に一瞬の静寂が流れ、まるで時間が止まったかのようだった。店員は顔を真っ赤にし、慌てふためきながら頭を下げた。
「す、すみません! いらっしゃいませ、いらっしゃいませ!」
女性はクスクスと笑った。その笑顔を見て、店員の心の中はパニックが加速していった。
「ご、ごめんなさい、ついこの間まで寿司屋の店員で……」
店員は急いで弁明した。聞いてもいないのに、一生懸命に話した。
寿司屋でのバイト経験が長かったこと。
配達は上手で褒められたこと。
好きな寿司ネタはマグロであること。
店員のその慌てぶりに、女性は呆れながらも可愛らしさも感じ、ますます笑顔を広げた。
「そうなんですね。でも、ちょっと面白かったです。新鮮な気分になりました」
女性は微笑みながら答え、レジに商品を置いた。店員は少し照れながらも、丁寧にレジ打ちを始めた。二人の間には穏やかな雰囲気が流れた。
「ありがとうございました。またお越しください」
店員が最後にそう言うと、女性は手を振りながら店を出て行った。ドアが閉まると、店員は大きく息をつき、心の中で自分に言い聞かせた。
「次はちゃんと言えるようにしよう。いらっしゃいませ、いらっしゃいませ」
その時、店の自動ドアが開く音がし、先ほどの女性が戻ってきた。店員は反射的に声を出した。
「へいらっしゃい! ってちがーう!」
女性は笑った。店員のパニックは、まだまだ終わらないらしい。
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