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「蘭ちゃん、何か手伝おうか?」
割り当てられた部屋に運んで貰った荷物を解いていると、開いていたドアをノックしながら秀星先輩が声を掛けてきた。
「あ、秀星先輩! いえ、その……大丈夫です!」
突然現れた先輩に驚いた私は慌てふためきながらも聞かれた事に『大丈夫』と答える。
「蘭ちゃん、今日から一緒に住むんだし、俺らもう家族になるんだから、『先輩』ってのはちょっと変じゃない? 呼び捨てで構わないよ?」
「えぇ!? いや、それは流石に……秀星先輩――いえ、秀星さん……の方が年上ですから」
「別に気にしないのに。まあ、呼びやすいなら『先輩』呼びのままでも構わないけど……そうだ、俺と蘭ちゃんは兄妹になるんだし、『お兄ちゃん』って呼んでくれてもいいんだよ?」
「そ、それは……」
確かに、私たちは義理だけど兄妹になる。
けど、『お兄ちゃん』呼びなんて呼び捨てと同じ……いや、下手するとそれ以上にハードルが高いと思ってしまう。
「あの……呼び方については、そのうちという事で……」
「あはは、そんなに真面目に悩んで、蘭ちゃんって可愛いね。ま、好きに呼んでよ。それはそうと、俺は何て呼べばいいかな? 勝手に『蘭ちゃん』って呼んでるけど……俺的には『蘭』って呼びたいんだけど、いい?」
私が先輩をどう呼ぶかはひとまず保留という事にしてもらって話は落ち着いたのも束の間、今度は秀星先輩の方が私をどう呼ぶかという話になり――先輩は呼び捨てで呼びたいと言ってきた。
男の人に呼び捨てで呼ばれる事なんて無かった私は少し戸惑ったけど、他でもない先輩に呼ばれるのなら嬉しい事この上ない。
「も、勿論です! 好きに呼んでください!」
「ありがと。それじゃあ蘭って呼ぶね。今日からよろしく。それと、呼び方は好きにしていいけど、敬語だけは無しね? 家族だし、蘭と早く打ち解けたいからさ」
「は、はい――じゃなかった……うん、分かった」
「それじゃ、また後で」
先輩が私を呼び捨てで呼ぶ事を承諾すると、嬉しそうに笑顔を向けてくれた。
それだけでも嬉しかったのに、去り際、敬語は無しと言われて『分かった』と返した私の頭をポンと撫でてくれた事で、嬉しいのと恥ずかしいのとで私の体温は一気に上昇していった。
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