パニックの裏

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 受験票を、忘れた……? 嘘、家に出る前に確認したはずなのに……。  暖気に包まれていたバスの中にいたはずが、心だけ一気に冷たい箱に閉じ込められてしまったようだ  今日は、高校受験だ。人生の一つの岐路といっては過言ではない、重要な日なのに……。 途中のバスで降りたところで、なす術はない。どうしたらいいんだろう……。  鞄を抱えながら途方に暮れていると、綺麗な女性が話しかけてきた。 「あの、顔色がとても悪いのですが、何かありましたか?」  艶々と流れるような黒髪に、ぽってりと薄赤いグロスをのせた唇が動いた。 「大事な忘れ物をしてしまって……」  存外、か細い声で答えた。  こんな事言ったってどうにもならないのに……。  女性から目を逸らそうとすると、手の中に何かペラリとした物を押し付けられた。  見てみると、なんと受験票だった。 「これ、どうして……!?」 「足元に落ちていたので、もしかしてと思いまして……受験生なのですね、頑張って下さい」 女性はそう微笑みかけ、バスのドアの方へ歩いて行った。今気づいたが、バス停に止まっていたようだ。  僕は、女性がバスから完全に降りるまで見送った。女神って、この事なのかもしれない。  受験票を今度こそ落とさないように、鞄にしまいながら、深く深く噛み締めた。
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