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それは事故が遭った場所。
勘当されたシオンは死体を埋葬すらされず、墓がない。
そのため、現場に花を供えにいくのだ。
事故は雨の中、馬車が山を走っていた時に起きたらしい。
「一年振りですね、シオン様」
崖下にある川の近くに花を置く。
いつも、ここに来る時はスズラン一人だった。
ポトスも理解してくれており、過去に想いを馳せる時間になっている。
シオンは周りから非難され、親からも見捨てられなくなった。
しかしシオンの死によって助かったスズランは、どうしても恨み切れず、憎み切れず、こうして逢いに来るのだ。
その時、突然背後からガサッと木々が生い茂る音が聞こえ、振り返る。
そこにはライラックの姿があった。
「ライラック様……?」
「君、だったのか」
ライラックはスズランの姿を見つけるなり、目を見開いていた。
「この時期になると必ず誰かが花を供えに来るから、誰か気になっていたが……やはり君か」
「ライラック様も来られていたのですね」
「一番の友人だからな」
シオンを慕っていた友人たちも、シオンの行いは許されるものではないと縁を切る者がほとんどだった。
しかしライラックだけはいつも、シオンに付き纏っていたことを思い出す。
「そういえば、君とは自然と疎遠になっていったが話は聞いているぞ。結婚して子供もいるって。君の夫は君にベタ惚れとも聞いている」
「そ、そのような噂が流れていたのですか」
少し恥ずかしかったが、あながち間違いではない。
夫はスズランが好きで好きで、いつもたくさんの愛情を与えてくれるからだ。
「幸せか?」
ふと、ライラックが切なげに尋ねてきた。
過去の婚約破棄までの流れを知っているからだろうと思い、スズランは笑顔で答えた。
「ええ。とても幸せです」
「そうか」
ライラックもつられて笑顔を浮かべる。
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