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「なあ、君についてきてほしいところがあるんだ」
「私に?」
「時間はあるか?」
スズランは戸惑いながらも小さく頷く。
そうしてスズランはライラックの後をついていった。
「ここは……」
二人は山奥へとやって来た。
ライラックがようやくそこで足を止める。
そこにはポツンと小さな墓があった。
「俺が内密に作らせたんだ。このことを知っているのは俺だけだ」
「ではシオン様は……」
「ああ。ここに眠っている」
そっと墓に触れるライラックの目は潤んでいた。
周囲から非難されて亡くなったシオンにも、大切に思ってくれる人がいたのだ。
スズランは墓の前に屈み、手を合わせる。
「君はシオンを恨んでいないのか?」
「シオン様のおかげで、私は今を生きていられるのです。あの頃は確かに苦しい時もありましたが……婚約破棄は元々、私から申し出るつもりだったんです」
スズランはあの頃の苦しみを思い出す。
シオンを愛していた分、冷たく突き放されて他の令嬢と仲睦まじい姿を見るのは辛かったが、それでも今の幸せはシオンの死の上に成り立っているのだ。
そのことを心に刻み、命の重みを感じるためにも、スズランがシオンを忘れることはない。
「ライラック様」
「……どうした?」
「こんな話、笑われるかもしれないのですが……実は、心のどこかで期待していたのです」
「期待?」
忘れもしない。シオンが学園から去った日、最後に見たシオンの姿。
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