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真実の愛
シオン・ヴァレンスは侯爵家の嫡男で、幼い頃から厳しい教育を受けていた。
「お前の婚約が決まった。シャローラ子爵家の令嬢だ」
父親の言葉にシオンは黙って受け入れる。
これは政略的な婚約で、シオンの意思が反映されないことはわかっているからだ。
両親も政略結婚で、そこに愛はなく冷えた関係だった。
『父上。あの、今日は先生に……』
『忙しいのがわからないか?』
『母上。見せたいものが……』
『貴方の相手をしている暇はないの』
幼少期から両親に放置され気味だったシオンにとって、愛が何なのかわからず、自分もそうなるのだろうと思っていた。
しかし──
「お初にお目にかかります。スズラン・シャローラと申します」
初めての顔合わせで、スズランのどこかぎこちない挨拶は、何度も練習してきたのが見てわかった。
表情は固く、緊張している様子だった。
「……シオン・ヴァレンスだ」
シオンが名乗れば、スズランは嬉しそうな顔をする。
「シオン様、お会いできて嬉しいです」
スズランの温かな笑顔は、シオンの胸を高鳴らせた。
(どうして、そんな風に笑うんだ……?)
政略的に婚約した相手に、なぜこれほど明るい笑顔を向けられるのかと、シオンは不思議だった。
「嫌じゃないのか」
「え……」
初めての婚約者という存在に気持ちが昂っているだけで、何度か会っているうちに熱も冷めるだろうと思っていたシオンは、素っ気ない態度を変えなかった。
それでもスズランの嬉しそうな表情や温かな笑顔は変わらずシオンに向けられ、気になったシオンは彼女にそう尋ねた。
「この婚約は君も望まないものだろう」
「ですが貴族の間ではよくあることです」
スズランもシオンの質問に対して不思議そうに答えていた。
どうやら認識の違いらしい。
「ではなぜ私と会った時、笑顔だったのだ」
「それはシオン様の話を聞いて、お会いできるのが楽しみだったからです。私と歳が同じなのに、素晴らしいお方だと聞いておりました」
家では侯爵家の嫡男として厳しい目を向けられたり、貴族との交流ではシオンの肩書きにしか興味のない人たちばかりだった。
その目に慣れてしまっていたシオンにとって、純粋な好感の眼差しはとても新鮮に映った。
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