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◇
最初の一年間は幸せに包まれていた。
休みの日以外は、毎日のようにスズランと会うことができたからだ。
しかしその幸せも突然終わりを告げる。
「シオン様、申し訳ありません。私……呪いを受けてしまいました」
ある日、突然スズランに呼び出されたシオンは、只事ではないだろうと思っていた。
(呪い……?)
しかしそれは想像を遥かに超えるもので、涙ぐみながら話すスズランが恐る恐る見せてくれた手のひらには、確かに呪いの印がついていた。
(呪いには解呪の条件が必ずあるはずだ)
呪いについての知識をある程度持っていたシオンは、解呪の条件を知っているのか聞こうとしたが、その前に再びスズランが口を開いた。
「このままではシオン様の家にも迷惑をかけてしまいます。なので……」
「呪いだと? 気持ち悪い」
シオンの心臓が嫌な音を立て、咄嗟に突き放す言葉を口にした。
(彼女は今、私から離れる選択をしようとした)
「まさか私に解呪させるつもりか? 君はその条件を知っていて、手を貸せと?」
「そのようなつもりは……! 解呪の条件は、わからないので……」
それとなく探ってみると、スズランの反応を見てシオンは瞬時に理解した。
(スズランは解呪の条件を知っている)
心清らかなスズランは嘘が吐けない。
何か事情があって嘘を吐いたり、隠し事をしようとした時、スズランはいつも視線を合わせようとせず、手のひらをぎゅっと握る癖があった。
(私から離れようとするほどの条件とはいったい……)
辛い時に寄り添ってやれないのは苦しかったが、それ以上にスズランの呪いをどうにかしたくて、シオンは解呪の条件を知る手がかりを探した。
(いったい誰がスズランに呪いを……? 心当たりは……まさか)
学園に入学してから、シオンにはスズランという婚約者がいるにも関わらず、その座を狙おうとする令嬢たちが後を絶たなかった。
その中でも特に懲りずに近づこうとしてきたのが、ユリ・サンドロテ伯爵令嬢だ。
(最近、父上がサンドロテ伯爵が呪いに関与しているのではないかと怪しんでいた。もしそれが事実だとしたら……)
その後のシオンの行動に迷いはなかった。
呪われたスズランを毛嫌いするように突き放し、ユリには甘い言葉をかけて近づく。
自分が愛されていると勘違いしたユリは、すぐに解呪の条件を口にした。
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