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「実は解呪の条件は『シオン様が死ぬこと』なのです。彼女がシオン様を殺そうとしない限り解呪できません。なので安心してくださいませ、シオン様。これで私たちは一緒になれます」
この時まで、シオンはほんの少し希望を抱いていた。
たとえ周囲を敵に回そうとも、スズランが助かるのならどのような手を使おうと厭わないとすら思っていた。
しかしその条件が自分の死であるとわかり、そこに救いがないのだと知る。
(スズラン、君は……一人で孤独に死ぬつもりだったのだろう。いったいどれだけ苦しかったことか。どれだけの決意を胸に……私に呪いの話をしたのか)
思わずスズランの元に行って抱きしめたい気持ちをグッと堪える。
解呪の条件がわかれば、あとは簡単だった。
シオンは恋に溺れて破滅の道を辿る愚弄な人間を演じ、スズランに婚約破棄を告げる。
多くの者の前で勝手に婚約破棄を突きつけたシオンを、父親は絶対許さないだろう。家から追い出されたら、あとは……この命の灯火を消すだけだと。
醜態を晒して周りを騙すことに成功し、想像以上に事は順調に進んだ。たった一人を覗いて──
「……少し、乱暴すぎると思わないか?」
スズランに婚約破棄を突きつけた帰り道。
シオンは何者かに攫われ、薄暗い部屋に閉じ込められていた。
手足は見事に縛られていたが、誰の仕業かは考えなくてもわかった。
「なあライラック。早く外してくれ」
シオンの目の前には幼少期からの友人で、一番心の許せるライラックの姿があった。
「どういうつもりだ」
スズランを冷たく突き放すシオンに、ライラックだけは何度もぶつかってきた。
そんなライラックを見るたび、シオンは本当のことを話そうかと悩んでいた。
「スズラン嬢のことをあれほど想っていたお前が! こんな真似をしてどういうつもりなんだ!」
「どうもこうもない。彼女への気持ちはとっくに冷めた」
「嘘をつけ! あんな形で婚約破棄を突きつけて、お前の父親が黙っているはずがない! どんな罰を受けるかなんて、賢いお前がわからないはずないだろ!」
ライラックは鋭くシオンを睨みつけ、胸ぐらを掴む。
「お前はきっと破門される。そうなれば平民堕ちだ! 学園にすら通えなくなるんだぞ!」
「お前には関係ないだろう」
「いい加減にしろよ!」
ライラックの怒号が鳴り響く。
自分のためにこれほど怒ってくれるのは、生涯でライラックだけだろうとシオンは思った。
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