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◇
「スズラン・シャローラ。君との婚約を破棄させてもらう」
冷えた関係性は修復するどころか、悪化の一途を辿っていき、ついに終止符が打たれた。
学園内で開かれたパーティーで、シオンがスズランに婚約破棄を告げたのだ。
シオンの隣には浮気相手のユリが立っている。
スズランを見下すような視線を向け、意地の悪い笑みを浮かべていた。
(覚悟は、していた……)
自ら婚約破棄を申し出るつもりだったスズランは、もちろん受け入れるつもりだった。
しかし呪いによってシオンの態度が急変し、突き放されてしまった挙句、他の令嬢と愛し合う姿を見ると胸が苦しくて仕方がなかった。
(泣いてはダメ)
スズランは婚約破棄を受け入れる。
「シオン様っ、これで私たち婚約できますね!」
「そうだな、私の愛しいユリ」
二人の幸せそうな笑顔を横目に、スズランは会場を後にした。
(せめて馬車に乗るまで、泣きたくないのに……)
今にも涙が零れ落ちそうで、視界が歪んだ。
先程のシオンの言葉が頭から離れず、つい足が止まってしまう。
「スズラン嬢!」
そんなスズランを追いかけてきた一人の令息が、彼女の名前を呼んだ。
「……え」
振り返ると、そこにはポトス・シルヴァン伯爵令息の姿があった。
スズランとは同じクラスで、よく話もする友人だった。
「その、君が心配で」
「心配してくださってありがとうございます。ですが私は大丈夫ですので……」
「大丈夫じゃないだろう。今にも泣きそうだ」
「……っ」
こんな風にスズランに寄り添ってくれるのは、いつもポトスだった。
誰もが男女のいざこざに巻き込まれないと傍観を決める者が大半を占める中、ポトスはいつもスズランの味方をしてくれていた。
「ごめん、なさい……」
「早く馬車に行こう。ここにいては人目についてしまう」
ポトスは涙を流すスズランを馬車まで送ってくれた。
「スズラン嬢、どうか気に病まないで欲しい。君は悪くないから」
ポトスの真っ直ぐな視線はどこか熱を帯びていて、思わず目を逸らしてしまう。
(呪いの話を聞いたらきっと、私が悪いのだと分かってしまう……)
今のスズランは気が滅入ってしまい、悪い方向にしか物事を考えられなくなっていた。
こうしてスズランとシオンの婚約破棄が成立した。
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