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「しかし彼女たちと言う通り、なぜ自分にひどいことをした相手を庇ったのだ?」
「それは……私の中に、幸せな記憶が残っているからです」
スズランが呪われる前の、シオンとの関係は良好だった。
どこか素っ気ない部分はあったが、いつもスズランを気遣い、大切にしてくれた。
普段は物静かなシオンが見せてくれるあどけない笑顔は、今も忘れられない。
(未練がましいと思われるかもしれないけれど……それでも確かに私の幸せは、シオン様との日々の上で成り立っていた)
今も断ち切れない想いを表すように、校舎の窓の外に視線を向けてシオンの姿を探していた。
すると手続きを終えたシオンが帰る姿を見つけた。
思わずその姿を追っていると、突然シオンが振り返って目が合ってしまう。
「……っ」
いつものように冷たく睨まれるのではと思い、怖くなったスズランは咄嗟に顔を背ける。
(……シオン、様)
それでもスズランの中には、忘れられないシオンと過ごした幸せな日々が存在していて、最後にもう一度その姿を確認しようと窓を覗く。
(……あれ)
シオンはすでに門へと歩き始めていたが、ふとシオンの耳元が青く光った気がした。
それはスズランがシオンの誕生日に贈った青いピアスに見えたのだ。
しかしシオンの姿は段々と小さくなり、スズランがプレゼントしたピアスか確認できなかった。
(きっと気のせいよね)
呪いの話をして以降、シオンはスズランが贈った青いピアスを一切つけなくなったからだ。
ユリが贈ったものかもしれないと思い、スズランはそれ以上シオンを目で追うのはやめた。
それから三日後、ある知らせが学園内に入ってきた。
それはシオンが馬車の事故に遭い、亡くなったという訃報だった。
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