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◇
それから十年の歳月が流れた。
「スズラン、今日の天気は本当に大丈夫か?」
「もう、心配しすぎよ」
屋敷を出ようとしたスズランに声をかけたのは、夫となったポトスだった。
心配性なポトスを安心させるように、スズランは笑顔を浮かべる。
(ポトスは毎年同じ心配をしてくれる……あの日が雨だったから、仕方がないけれど)
ポトスはスズランの婚約破棄をきっかけに、本格的にアプローチを開始した。
中々シオンとの想いを断ち切れずにいたスズランだったが、徐々に一途な彼に惹かれていき、無事に結婚。
今では息子が一人いて、幸せな家庭を築いていた。
それでもスズランは年に一度、必ず足を運ぶ場所がある。
「僕も行きたい!」
ポトスの隣でスズランを見送りに来ていた息子が、突然駄々をコネ始める。
「今日は私と一緒に遊ぼう」
「えー……わかった」
「いい子だ」
そんな息子をポトスが宥める。
ポトスはスズランに今がチャンスだと言うように合図を送り、スズランは口パクでお礼を告げて家を後にした。
「ねえ、どうして僕や父上はお留守番なの?」
「スズランは……お母さんは、大切な人に会いに行くんだ」
「僕や父上よりも大切な人なの?」
「そんなわけないだろう。ただ……その人がいなければ、お母さんは亡くなっていた。私たちと比べることができない存在なんだよ」
そう言って、夫は子供の手を引いて部屋へと戻っていく。
そう。スズランは年に一度、シオンに逢いにいくのだ。
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