0.おとぎ話

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0.おとぎ話

 『むかしむかし、この世界の大地は黒く草木は枯れ、水は流れることを知らず淀んでいました。 空は暗く、生き物は常に飢え、暗闇に恐怖を抱いていたのです。 なぜなら世界は悪魔のように恐ろしいケモノ達に支配されていたから。 新月の夜空のような真っ黒な毛。 深淵を覗いているような漆黒の瞳。 彼らは血に飢えた獣のように何度も争いを 繰り返しています。 その様子を嘆いた女神様はついに、その力をもってケモノ達を蹂躙し世界に彩りを与えました。 水は絶えず流れ、風が種を運び、大地は美しく芽吹き始めました。 ケモノ達は罰として鎖で繋がれ、女神様の加護を与えられた我々人間は国を作り、平和な時を過ごせるようになったのです。』  教会の聖堂に男の声はよく響く。 日の光を彩るステンドグラスに子供達の目は釘付けとなる。ガラスに描かれた美しい女神と魔法は色とりどりで、下から天井へ向けて世界の成り立ちと伝承が描かれていた。 天井には宇宙の絵があり、大きな流れ星が青い光を放ちながら流れている。 『女神様の寵愛に感謝の心をけして忘れることなく...』 「ねぇ、鎖で繋がれたケモノはどうなったの?」 静かに壁画を見上げていた子供の内一人が一番下に嵌められたガラスを指差した。 牢獄のように真っ暗な空間の中央に佇む黒いケモノ。 大きな狼のような、ボサボサの頭の人のような黒い影。それは恐ろしく不気味なようでいて悲しく孤独なものにも見える。 「どうして女神様は鎖で繋いだの?」 国の成り立ちとなる神話に意味など無い。 それでも、神父は子供の頭を撫でながらにこりと笑った。悲しげな子供を映すその瞳に深い慈愛を込めて答えた。 「愛ゆえに、です」 子供は頭を捻りながらも『愛』という言葉を繰り返し呟いた。それが何なのか、分かるわけもなくそれでも気恥ずかしさだけは覚えて神父の顔を上目遣いに見上げる。 「神父様は、その」 もじもじと肩を揺らしながら言葉の続きを口にする前に、何もかも見通しているような顔で神父は頷いた。 「勿論、君の事を愛していますよ。 私も、女神様も。だからあなたもいつか真実の愛を見つけてください」 真っ赤になる子供の顔を転がすように撫で続けた。少しくすぐったいような、それでいて温かさを感じるこの感情が『愛』なのだと子供は感じていた。 そしてそれを、誰かに与えられるようになりたいとも願っていた。 いつか、真実の愛というものを見つけた時に自分もそれを与えられる人間になろう、と。
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