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一仕事終えた後の路地。
街灯の火は気持ち程度にほんのりと点っているだけでレンガを敷き詰めた道なりに影を落とすのは夜空の明るさだった。
ひらりと揺れる外套もブーツが踏み鳴らす足取りも軽やかで鼻唄でも歌っているかのようにご機嫌に見える。
明かりが消え、町中が眠りにつく。
この静けさが心地いい。
町中に広がる街灯も最近はマナの配給量を節約するためか暗くなるのが早くなった。
最近は魔力を失った宝石もよく手にはいる。
商売繁盛はありがたい。が、貴族の相手は少々厄介だ。貴族というものは対面やプライドを気にする生き物だ、浮気の証拠を突きつけられいらぬ恨みを買うこともあれば浮気の調査が思わぬ陰謀論の会合だったりもするわけだ。
「そこの者止まれ」
声をかけられ足を止める。
振り向く事もなく相手の素性はすぐに分かった。ガシャと鉄の音が重なる。
町を徘徊しているチンピラの声のかけ方ではないことも明らかならば衛兵であることは間違いない。
だが、それにしては数が多い。
今進もうとしている十字路は平民が住む市街地にある。
入り込んだ作りでもう少し歩けばあちらこちらに抜け穴があるような場所なのだが、後ろから声をかけた衛兵は二人。
道の先の物陰に二人。
挟み撃ちにした挙げ句左右の道にも潜んでいる。
明らかに自分を狙った配置と分かればため息も出る。
「何か、ご用でしょうか」
「こんな夜更けに怪しい格好をしていれば声もかけるだろう。貴様、何者だ。何をしている。」
怪しい格好と言われても外套をひらひらとゆらしながら歩くのはそれほど珍しいわけでもない。こんな夜更けならむしろ当たり前とも言える。はてさて、どうするか。面倒くさそうに空を仰げばじりじりと距離を詰めてくるのが分かる。抵抗する気がなさそうだと尚早に判断したらしく、身を隠していた兵士の姿も確認出来た。警戒は緩めず、腰に刺さった剣柄に手が延びている。
「抵抗しなければ痛い目はみない。さあ顔を見せろ」
背後から伸びる兵士の腕は宙に止まる。
目的である外套も人の頭も瞬き一つで見失ったからだ。その上、ぐるりと視界が回った。
自分よりも背丈の小さなそれを掴もうとしたはずが今は天を仰いでいる。
『地』属性の魔法に一瞬で足元を沼地に変えるものがあったが、そうではないとすぐに気づく。星が遠くなった。つまり体が重力に引かれ落ちているということ。
兵士が手を伸ばした瞬間に身を沈め、足払いをされていたことに気づいたのは見事に後頭部を硬い地面に打ち付けた時だった。
即座に相棒である兵士が剣を抜き、外套の頭目掛けて打ち込んだがそれもするりとかわされる。膨らんだ暗色の布は主の体を隠しながら威嚇ともとれる動きを見せた。
囲んでいた兵士が一気に走り出し、取り押さえようと迅速に動くが長い布端を剣先に射止めることが出来ない。
まるで動物の尾影のように飛びついてもひらりとかわされては誘うようにゆらゆらと揺れる。焦燥に冷静さを欠く、遊ばれているのが兵士の誇りを傷つければなおのことだろう。
「くそおっ」
しまいに顔を赤くしながら乱暴に剣を振り回せば、仲間に当たるのは必須。
「おい、やめろ!」
「いってえ!馬鹿振り回すな」
「あぶねえだろ!」
やんやんや。もはや味方の剣の動きに注意が向いては標的の姿は目に入らない。
完全に頭に血が上った一人を押さえ込むので手一杯になってしまった塊を道沿いの店屋根から見下ろす。
「全く、血の気の多いこって。」
わんわんきゃんきゃんっ 仲間の尻尾を噛みぐるりと回る衛兵には付き合いきれない。
さっさっと立ち上がり、屋根を飛び越えながら帰路へとついた。
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