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今、僕は追われている。
いつもの学校の帰り道にある公園から僕の顔見るなり飛び込んできた。どれくらい走っただろうか……汗だくになりながら何とか川辺の方まで逃げてきた。10分くらいは走ったと思う。
「今日のアイツはしつこいな」
僕はいつもアイツを見るとパニックになり走りだしてしまう。リュックに入っていたスポドリとタオルで喉の渇きを濡し、滝のような汗を拭いてベンチに座る。夕方だというのに日差しが強くてムシムシする猛暑日に全力ダッシュは危険すぎる。
「カサッ!バサバサッ!」
「うわぁ!!」
ベンチに寝転がりリラックスモードだった僕の体めがけて白い何か丸いものが乗っかってきた。おわった、と諦めてその白い何者かに身を委ねた。もう逃さないと言わんばかりに体重をかけてくる白くてふわふわしていているサモエドだ。もう頭はパニックでどうにかなってしまいそうである。
(僕は犬が苦手なんだー!!)
そう心の中で叫び続けた。それでもこのサモエドは許してくれない。僕のことが大好きだからどこまでもおいかけてくる。この重みと犬が苦手なんだ恐怖心と犬を乱暴には扱いたくない良心といっそ吹き飛ばしたいとさえ考えてしまう悪心……もう感情がグチャグチャです。
「こまき〜!!また新ちゃんのこと追いかけ回してたのねっ、はっはぁ〜」
「わぁう!!」
公園からここまでは長い一本道でつながっている。幼なじみの真昼がお散歩グッズを抱え全速力で走ってきた。こまきは僕の上でご機嫌にしっぽを振っている。なんなら毛づくろいすら始めてしまった。もう降りる気配もない。
「頼むからリード離さずに持っておいてくれよ」
「それは本当に飼い主失格すぎて反省してます」
真昼がリードをつけて、僕はやっと白いふわふわのサモエドから解放された。服もタオルもしわくちゃである。愛されているんだと思えば、可愛いんだが追いかけ回してくるのは恐怖でしかない。少し距離を取り、スポドリを飲んでいた僕の隣に、こまきは飛び乗り横で寄り添うように座った。
「新ちゃん、こまきのことやっぱり苦手?」
「犬は苦手だが、飼い主がリード持ってかれてダッシュでこっちに来るのはパニックだわ!二度とやるな!僕でよかったわ!」
「それは、本当に反省しています」
真昼も反省しているようなので、ここはジュースを奢ってもらい事なき得たのである。よく見たらこまきはもふもふで可愛いのは間違いないんだ。追いかけ回されると怖い。それでもこまきのもふもふは癒やしのシャワーを浴びてるくらい心が落ち着くのである。
「まっ、反省してるなら許す!……ゴクッ、はぁ〜マジで怖かった」
そう言って僕は貰ったコーラを飲み干し、帰りの支度を始める。真昼もこまきの興奮状態を落ち着かせて、リードをしっかりと持ち、こまきを自身に引き寄せて歩き始めた。
あれから数日後
「こまき、こまき、こっちくるな!」
「わぁう!!!」
海辺に見えるベンチへ向かおうと歩いていた。その後ろからあの白いふわふわのこまきが追いかけてきた。しっぽをものすごく振ってきてくれるのは嬉しいんだけど……僕は犬が苦手なんだよ。
「真昼!!!リードどうなってんだよ!!」
「ちゃんと繋がってますよ!」
はい、終わった。こまきにタックルされて鬼ごっこはこまきの勝利。スリスリするたびにモフモフの毛束がもう脱力しか与えない。パニックだった僕を一瞬でモフモフパラダイスにしてくるから恐ろしい。
これが僕の日常化したのは間違いない。
僕は犬が苦手で追いかけ回れたらパニックになるが、モフモフサモエドに屈してしまうごく普通の高校生です。
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