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「いいか。俺はもう十分頑張ったと思わないか。俺だって、休息が欲しい。いつ死ぬか分からない日々の中で、日常を楽しんでみたいんだ。少しの間でいい。その間代わってくれないか」
まっすぐな視線に思わずたじろいでしまう。そんな真面目な理由だったら、引き受けてやりたい。
でも……俺にそんな力はない。
「申し訳ない。代わってあげたいのは山々だけど……」
「じゃ、そういうことで、話進めるね」
俺の話を遮ると、彼は淡々と話を進めた。バケモンヒーローの仕事は次の通りだった。
①連絡用端末からバケモンがきたことと、その場所が知らされる。そしたら、急いで衣装に着替えてその場所に向かうこと。(場所には、連絡用端末を使用すると瞬間的に移動できる)
②たたかう
③撤収
聞く分には単純だ。しかし……
「あの。質問があります」
小学生が先生に分からない問題を質問するときのように、俺は小さく手を挙げた。
「この②。簡単に書かれているんですけど、俺は運動神経だけはどうしても自信がないんです。今から鍛えるにしても、ちょっと無理がありませんかね」
本当は、勉強もからきしだったが、少し見栄を張って「だけ」と言ってみた。実際、運動は勉強以上に自信がない。中・高六年間の成績も5段階でずっと2だったくらいだ。
「ああ、それは問題ない。これを着れば、バケモンとたたかうのに必要な体力・運動神経全てがカバーされる。俺も運動は特別できる方じゃないが、これのおかげで何とか今まで命を落とさず、戦えて来た」
そういいながら、レッドは何か紙袋を出した。俺は、そっと中身を取り出す。中には、バケモンヒーローの衣装が入っていた。ヒーロー独特の引き締まったスーツに思わず見とれてしまう。男なら一度は、着てみたいと思うヒーロー衣装が目の前にある。小さいころ、親にねだっても買ってもらえなかっただけに、より美しく感じる。そっと、触ると、滑らかな手触りで伸縮性もある。これを着て、戦うのか、俺が。この俺が世界を救うのだ。
いや、救えるわけないだろう!
「いやいや……やっぱり無理です!いっそ、他カラーの皆さんに、休ませてもらえるように、頼んだらどうですか?」
「他カラーが頑張っている中、そんなこと言えるわけないだろう。あ、あと言い忘れてたけど、他カラーにも君が俺じゃないって、ばれないようにしてね」
呆然としている間に沈黙が流れた。その沈黙を了承と判断したのか、レッドは口を開いた。
「他に質問はないね?じゃあ、次の戦いはよろしく頼んだよ。」
そういうと、レッドは、注文したアイスティーを一気に飲み干し、バケモンが出現したとき用の連絡端末と、自分の携帯番号、そして、ヒーロースーツの入った紙袋を俺に押し付け、店を出ていった。
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