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お困りごとはございませんか?
「ようこそ、いらっしゃいましたお客様」
「……はい」
扉から入ってきたのは小柄な女性で、白いブラウスに花柄の膝丈くらいのスカートで白いパンプスを履いて申し訳無さそうに肩をすくめていた。
店主はそっと手を取り、女性をテーブルへと案内した。手に触れた瞬間、ビクッと驚き一歩引いていても動じずにエスコートする店主に、女性は少し胸がときめくような顔を見せていた。
「こちらのお席へどうぞ」
「……ありがとうございます」
椅子を引いて着席を促す動作には無駄がなく、女性はスムーズに座ることができた。
店主はさっとカウンターへ行き、再び女性の前に戻り水をテーブルの上にそっと置き、おしぼりをさっと開いて差し出した。会釈をしておしぼりを受け取る女性は、まだこの状況が読み込めていないようで、あたりをキョロキョロしながら戸惑いと不安が顔に出ていた。
「当店はハーブティーとお菓子を出す小さな喫茶店になります。ここのハーブティーを飲むと悩みが無くなると、評判のようです」
「悩みが無くな……る?」
「ハーブティーには様々な効果や効能があります。組み合わせによって、様々な体の不調を和らげてくれるそうです。温泉の効能みたいなものでしょうか」
「……悩みですか」
「当店にはメニューがありません。お客様に合わせたハーブティーとそれに合うお菓子をセットでお出ししております。お悩みが決まりましたらお声掛け下さい」
店主はそっと会釈をし、カウンターへと戻っていったのを確認し、女性は改めて店内を見回した。
よく見ると、あちこちにハーブだろうか?ドライフラワーなのか?色とりどりの植物とカラフルなお菓子ととても落ちつく香りが漂っていて、この空間にいるだけで何か満たされるような幸福感になる。
出された水を一口飲むと、ハーブ独特の香りとレモンの酸っぱさも感じだ。お洒落なカフェによく出てくるような物よりも、より香りも味も濃いというか何かが違うが……自分の表現力に限界を感じ考えるのをやめた。
「すみません」
「お悩みは見つかりましたか?」
女性はそっと息を吐き、覚悟を決めたように店主を見つめてゆっくり語り始めた。
「結婚直前に彼氏の浮気が発覚して、何故かこっちが婚約破棄を言われて……、仕事もミスばかりで上手くいかなくて……、毎日落ち込んでばかりで、自分は不幸で悪魔か幽霊にでも取り憑かれてるのかな?って思ってしまうくらい根暗なんです」
「ほう、悪魔に取り憑かれてるとはそれは大変ですね!」
「いえ、例えです!そこまでは思ってないです」
悪魔というワードに店主は思わず、口を挟んでしまった。女性はすかさず、首と手を振り違うというジェスチャーをしながら否定をした。
コホン、と咳払いをし店主は軽く会釈をした。
「かしこまりました。お客様のお悩みに合ったハーブティーをご用意致します。アレルギーや嫌いなお菓子などありますか?」
「特にありま……あっ、マシュマロは少し苦手です」
「かしこまりました。では、少しお待ち下さい」
「あっ、あの……このお水もハーブですか?」
「はい!そちらはレモングラスとスライスレモンが入っております。気分の落ち込みや不眠や夏バテなどに効果があります」
「なるほど〜ありがとうございます」
店主は再びカウンターへ戻り、予め用意していたハーブを見つめお悩みに合ったハーブティーをいくつか考え始めた。
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