嵐の夜に

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 突然扉を叩く音が聞こえた。  チッとデイモンは小さく舌打ちをする。  あの男が戻ってきたのだろうか。  だとしたら厄介だ。  ここで顔を見られるのはまずい。  デイモンは急いで玄関から反対側の部屋に走っていき、その窓から外に飛び出した。  嵐の中、デイモンは革靴で泥水の中を走る。  革靴に入り込んだ水で足が重くなる。  それに加えて泥が絶えず足に纏わり付く。  雨でかすむ視界に腹立ちながら、革靴履いてくるんじゃなかったとデイモンは再び後悔した。  ふとデイモンは今朝の違和感の正体に気付く。  泥がのだ。  昨日あれほど雨が降ったのにも関わらず、今朝は土埃が舞うほど地面は乾いていた。  一夜で水が全て蒸発する、普通ならばありえない話だ。  デイモンは先程エミリーの家で見たカレンダーを思い出す。 「まさか……」  デイモンは持ってきたカバンに手を突っ込む。  その中から今朝買った新聞を取り出した。  稲妻の光に頼って、書かれた日付けを見るとの日付けになっていた。 「ありえない!!ありえない!!これは何かの冗談だ!!!!!!」  狂った様にデイモンは大声で叫ぶ。  どこに走っているのかも分からず、ただただ走り続けた。  ふとデイモンの目の前に道が開く。  それと同時に眩しい、稲妻ではない光がデイモンの体を照らした。  キィーーーーーーと甲高いブレーキの音と共に強い衝撃がデイモンを襲う。  何が起こったのかも分からないまま、最後にデイモンの瞳に映ったのは、メルセデス・ベンツに乗った、自分と同じ顔の男だった。
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