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◇ ◇ ◇
「本当なんですって! あの人、帰り際に声掛けてきた上に、家までついて来て! 下着まで無くなってて!」
店の中にまで聞こえるぐらいの勢いでまくし立てる私を見て、さすがの店長も目を見張った。
「まぁまぁ。でも聞いた限り、実際にその人が盗んでるところを目撃したわけじゃないでしょう? 本当について来たかのかどうかだって、見たわけじゃないし。あくまで想像なわけで」
「店長、私を疑うんですか⁉ 見なくたってわかりますよね? 気配とか、音とか。アイツ、絶対あの後私の事つけて来たんですよ! 下着まで盗んで! もう絶対家も知られてる! 本当に嫌だ!」
私は頭を抱えてしゃがみ込んだ。
「ごめんねぇ、千紘ちゃん。僕も責任感じちゃうなぁ。今日は休んでいいから、ひとまず帰ろうか」
「でも……あの男の人が来たらどうするんですか? 警察呼んでもらえます?」
「僕がちょっと話してみるよ。一応お客さんだし、証拠もないのにいきなり警察は流石にまずいでしょ」
「でも……」
今すぐ目の前で逮捕して欲しいぐらいなのに。冷静に考えると、店長の言う意味も理解できるだけに、どうしようもできない自分が歯痒かった。
「とりあえず僕に任せてみて。今日のところは、車で家まで送るよ」
猫背で覇気のない店長は、頼りはないけど悪い人じゃない。私は渋々店長の言葉に従った。
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