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◇ ◇ ◇
いつもより早い時間だけど、既に外は薄暗くなっていた。
店長に促され、コンビニのロゴが入った軽バンの助手席に乗る。店長の車に乗せて貰うのはこれが初めてだった。
「狭いけどごめんねぇ」
「いえ、大丈夫です」
私は神妙に頭を下げた。
時間が経つに連れて、なんだか店長に対して申し訳ないような気がしてきた。証拠がないというのは、まったくもってその通りだ。勝手に決めつけて、舞い上がっていた自分が恥ずかしくなる。
「悪く取らないで欲しいんだけどさ、千紘ちゃんも気を付けないとね」
車を走らせながら、店長は言った。
「一人暮らしの若い女の子って、あんまり洗濯物を外に干したりしないんじゃないの? 最近は、若い女の子が一人暮らししてるってバレるだけで危ないからって」
「一応、気を付けてはいたんですけど……」
痛いところを突かれて、返答に窮してしまう。わかってはいても室内干しと外干しでは仕上がりが違う気がして、天気が良いとどうしても外に干したくなってしまうのだった。念のため、外側をバスタオルで覆って中は見えないようにしていたのだけど。
「今は色んな人がいるからねぇ。用心に越した事はないよね」
「はい……」
私はしゅんとして、頭を垂れた。
――その時だ。
窓の外に、見覚えのある人影が見えた。
あの小太りの男だった。
男は走り去る私に気づき、物凄い形相で何かを叫んでいるようだった。
「きゃあっ!」
「どうしたの?」
思わず悲鳴をあげた私を見て、店長がブレーキを踏む。車が減速したのを見て、男が猛然と駆け寄って来た。
「店長、駄目! 早く行って下さい! 追いかけてくる! あの男の人! 早く!」
店長は目を見開き、すぐさま車を急発進させた。
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