青い蜜柑

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一人、道場で木刀を振る若者。 彼は子供のいない深山の次を担う予定でいたのです。 「師範代、どうするのかな?」 「何、何?」 「深山さまが次の代を決めかねているらしいんだ」 「どういうことだよ?」 「佐伯様で決まっていたんじゃないのか?」 「それがさ、なんか親戚がしゃしゃり出てきたみたい」 「まじかよ」 「それはこまったな」 「こらー!しゃべくってないで、掃除は終わったのか?」 「はい終わりました!帰ります!」 肩をたたかれた。 「子供の話すことだ、まだそんな話は出てないんだろ?」 「ああ」 「どっちの話を信じることもないだろ、今は横山もいないんだ」 それにびくっとした。 「どうかしたか?」 「いや、俺も帰るよ」 「俺、結婚するんだ!」 笑顔で言っていたやつは今この世にはいない、何をびくついているのだ? 帰り、人気のない場所で呼び止められた。 「よう、師範代様」 「なんだ?貴様らは」 男が四人、出てきた。 「アレー、忘れちゃったー?」 「そりゃあ、あったのは一度だもんなー」 「私は知らん」 「知らなくてもいいさ、御父上に話をしてくれないか?」 「は?話すならじかに言え!」 「じかに話したいんだけど、あってくれないんだよ、だから息子のあんたに声をかけたんだ」 「話などない!」 「まああんたにしたらないのかもしれないけど、俺たちにしたら、あんたが師範になる手助けをした、とでもいうべきことをしたんだ。話しぐらい聞いてもいいだろ?」 「私は知らん!」 「へー、横山が結婚して師範になるのなら、私はアイツを殺しても師範になる、そうですかー、殺したのはあなたですかー」 「私は殺してなどおらぬ!」 「そうですよー」 「殺したのは俺らだもん」 「ただ支持をくれ、金をくれたのはあんたの父親だけどな」 「それを知らないとは言わせない」 「だって、たった一度、あったのはその場所だ」 シュルリと剣を抜いた。 「ちょっと待った、殺さねえでください」 「俺たち殺してもいいことないですって」 「そんなことは知らん!」 男たちは切られた。 「つ、辻斬りだー!」 「ま、まて!・・・ははは、ははは、ここまでかー」 男はその足で、番屋へと向かったのだった。 次の日、佐伯家の前で頭を下げる若い男が屋敷の中へ入っていった。 「おかえりなさいませ」 「まあご無事で」 家に使える者たちがそういいながら俺は屋敷の中へと入っていく。 迎えに来たのは、父の部下。 こんな時でさえ、親はきやしない。 「ただいま帰りました」 「まったく手を焼かせおって」 「すみません」 「ここはよい、母に頭を下げてこい」 「はい」 一度外へ出て、隣の赤い門を入る。 母という人は、名前だけで、俺を生んだだけの人だ。 徳川の血を継いだ娘は、将軍の娘であって、俺の家族ではない。 「母君、ただいま帰りました」 「ご無事で何より」 「ありがとうございます。失礼いたします」 顔も見たことがない、声だけの人。 この女だけは何が起きても生きていく。 籠の中の人。 「かわいそうに、さよなら、もう会うこともない」 俺はそういってそこを出た。 水戸藩は三代将軍光圀公のおひざ元。 そして父は、将軍家の娘と結婚した。 俺はその息子。 父には側室もいて、そっちはいつも賑やかだ。俺だけが蚊帳の外だった。 何をやっても、何をしても、俺の後ろは箒ではかれチリ一つのこってはいない。 俺は何のために生まれてきたのか?そればかり考えてしまう。 将軍が変わる。 父はそれにばかり翻弄されている。 徳川家は水戸、尾張、紀州の御三家。そして次の将軍は尾張から出すはずだった。父はそれに力を注いでいた。 だが。 紀州のぼんくらが成り上がるだと! それを聞いて興味があった。 俺もそいつの家臣んだと思った。 だが遠くから見たその男が最初にしたのが、大奥のきれいどころをすべて宿下がりさせたということだった。 父の所へ泣きながら来る人たち。 みんな娘が将軍の子をなせば出世できると思っている馬鹿な親たちだ。 そして俺も、その馬鹿な考えを持った一人だ。 人をなん人殺しても何のお咎めもないし、生きていける。 俺が何もしなくて、黙っていてもこうして豪華な飯が食える。 ただ周りには誰もいない。 「忠助、準備はできておるのか?」 「はい、今、母上が着物を直しております」 「伊勢神宮の辺りは、気温の差が激しいと聞く体だけは大事にな」 「はい」 忠助は六代将軍家綱の時、優秀な成績で若くして奉行職に就き、正月前から伊勢へ行くことになっていた。 「父上!ああここに、忠助もいた」 「兄上、どうなされたのですか?」 「見つけました常陸の国ではなく、水戸藩、それも佐伯様のご嫡男です」 「佐伯殿か?」 「佐伯様というと、殿に反旗を翻しているお方ですか?」 「ああ、殿には息子がおるが病気なのは知っておるな」 「ええ、ですがあの子は」 「ああ、佐伯殿は子供が次の将軍になるのがわかっているから大反対なんだよな」 「まったく、初代様は、嫡男を次の世継ぎになんて遺言を残したばかりに、こんなことになるのだ」 「でも子供に罪はありません」 吉宗の息子は今でいう脳性麻痺で生まれ落ちた。先の妻は若かりしおり、死産のため体を壊し死んでから妻をめとることはなかったが、江戸に来て子ができたが妻となる女は死を選んでしまった。 子供のころ、親を知らずに育った吉宗は子供を愛した。 それを知っている忠助は伊織という友を吉宗のお抱え医師としてそばに置こうとした経緯がある。 「すごいな」 「人を殺しても親が片付けると」 「道を間違えているのに気が付いていないと?」 「それをわかってもらいたいのではないでしょうか。だから番屋へ行った、素直に話しているわけですからね」 「むずかしいな」 「ですがこれは」 「これは、殿の所へ行くであろうなー」 ですよねー。
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