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次の日。
「もう泣かないでくれよー」
「新さんだ!」
「よう新之助、大河」
「こもり?」
「その子どうしたんだ?」
「俺の子だよ、ぐずってさー、これから幽玄先生の所へ行くんだけど」
へー、俺代わろうか?
いいのか!
新さんよりはうまいと思うよ。
大河は、背中に背負うと嘘のように泣き止んだ。
「へー、ありがたてえや」
行こうよ、先生の所だろ。
おう!
「いたぞ!」
ザッと男たち、十人ほどに囲まれた。
「何もんだ!」
「お命頂戴する」
「俺が誰か知っているようだな」
「死ね!」
「子供らは関係ねえだろうが!」
「子供もやれ!」
「おい、おい!」
「やー!」
キン、キンと、刃が当たる音。
「新さん!」
「くそっ!」
ザッ!
そこに一人の男が現れた。
「新之助!大丈夫か!」
「おう」「はい!」
「え?あ?」
「伊織、後で説明する」
「おせーから見に来れば、なんだよこいつら!」
「さあな」
「さあなって、浪人か?」
「わからん!」
「新さん、後ろ、斜め右の男、門になんか張り付いてる」
「よく見つけた!伊織、着物を切るぞ」
「おう!」
ざんと袖を切り取った。びりびり破くと出てきたのは三つ葉葵に似たもの。
「ほう、六つ葵か、水戸の者だな」
「水戸だって?」「そいつもやれ!」
キン、キン!
「子供たちを!」
「お前らこっち」
「おっちゃん!」「後ろ!」
え!
キン!
「忠助!」「大岡様!」
「どうなってる!」
「わかんねえーよ!」
「忠助―!」
「と、新之助殿!」
「こりゃヤバイ、人を呼んできます!」
駆け出したのは忠助と伊勢へ行く下働きのものだった。
「水戸のものが俺を殺せば、次に立つものが自分に近いものだとおもっているのか?」
「話すことはない!」
「俺はこの先、この国を幸せにするって誓ったんだ、死ぬわけにはいかねえんだ!」
バサッ!
どさり!
三人はバタバタと人を倒し、応援が来た頃にはほとんどを倒したが、肝心な水戸の紋付を着た男を逃がしてしまった。
幽玄先生の所へ行き、忠助はこのことを父に話すと、すぐに伊勢へと旅立たった。
その時、吉宗は忠助にすぐにも江戸へ戻すと言い放った。
二年後江戸へ戻ってきた忠助は山田奉行となり、その後、江戸町奉行、名も越前となり、吉宗のそばに使えた。
電電太鼓のコロコロという音が鳴る。子供のキャッキャとはしゃぐ声、その横で雁首を並べる大人たちが皆腕を組んで考えている。
「何やってんだろうな?」
「さあ」
「でもさ、怖かったけど、なんで新さんが狙われてるんだ?」
「あーどっかの殿様なのは聞いたよね、確か紀州だったかな、俺、ミカンいっぱいもらったんだ」
「紀州?」
「うん、夏に梅くれてさ、梅漬け作ってくれって母ちゃんに言ってた」
「へー、紀州ねえ?確か将軍様も紀州だったよなー」
そうなの?
うん。
ふーん。
「やはり狙いは私か」
「ですが、なぜそんな子めんどくさいことをしたのでしょう?」
「息子とて、親は何も知らないわけだしな、何か憶測にあるのかもしれぬ」
「なあ大河」
「なに?」
「もしも、真犯人が出てきたら、お前、仇討しちゃう?」
「殿!」
「子供になんてことを―」
「俺は家を継ぐわけじゃないから、それはいいけど、なんで家族が、それに新之助の父と姉が殺されなきゃいけなかったのかは知りたいです」
「だそうだ」
「だそうだじゃねえ、だが真相は知りたいし聞いてみたいな」
「先生まで、ですがアヘンの出どころもわからないままではいられませんしね」
「米問屋も落ち着いているからこそ、この子たちに何か起きなければいいのですが」
「そういうこと、気お抜くなよ」
「あなたもです!」
怒られたと舌を出した人、この人が本当に殿様なの?と思う子供たちだった。
だがことは動き出した。
深夜。
「ウィー飲みすギター」
「飲み過ぎるのはいつものこと、今年の酒はうまいねー」
「クン。クン、クン」
「なにしてんだ?」
「おい目を覚ませ!付け火じゃねえか?」
「え?クン、風がねえ、どっちだ?」
「こっちか?」
そこで見たのは、今まさに火が上がっている。
「立て板だと?火事だー!みんな起きろー!火事だぞー!」
壁が燃えている、放火に間違いはない。風がないのが幸いして、すぐに消し止められた。
だが。
「新之助―!」
「いたか?」
「いない」
「どこへ行った!」
「新之助―!」
「おう、どうした」
「め組の親方、火事騒ぎで、弟が」
「弟?」
「いなくなったんだ!」
いろは47、火事と喧嘩は江戸の華とは言われてはいるが、まだこのころは、家を壊すのに反対する人と、火消しの間でのいざこざは多かったし、よく思っていないのも多かった。
ただ彼らを後押ししていた江戸奉行所は若い者たちが中心となって説得、大岡忠助が町奉行になるころやっと落ち着くことになる。
話は役人たちから聞いて彼らもまた、夜の見回りなど積極的に動いていた。
昼は鳶や大工をしていた彼らは、家を作るのも、壊すのにもかけていたのだ。
子供がいなくなった、それも話は大河との友情を守った町人の子供新之助。
人情話の好きな江戸っ子たちの話はあっという間に広がっていく。
「深川の方で見たという話が聞こえてきています」
急げとばかりに向かう人たち。
そして子供を背負った男たちは勇ましい町人たちに囲まれるのです。
そして引っ張られた先は奉行所、男たちは牢屋へ投げ入れられますが、火事も、子供を誘拐したことも知らぬ存ぜぬ。
しびれを切らしたのは、捕まえた町人たちでした。
「先生、どうにかならねえもんかねー」
「こればかりはなー、ほれ終わった、次!」
「伊織先生はお役人とも仲がいいだろ?どうにかならないのかい?」
「わたしごときではなー」
「上州屋さんはいい人たちでねえ」
「そうだ、進なんか、おとっぁんの後しっかりついでよ」
「新之助ちゃんもあの後みんなに頭下げに来て、本当にいい子なのにね」
「役人は何してんだろな。また火をつけられるかと思うと寝られねえしな」
そうだ、そうだ!
「ここは井戸端じゃねえんだ、薬もらったのはけえれ!」
「はい、はい、みんな早く帰れ、先生の寿命が縮まるからなー」
「そりゃこまる」
「それじゃあね」
「ありがとう先生」
「まったく」
「ですが動き出しましたね」
「水野と一橋が老中になったんだ、佐伯もつつかれることになる、それに」
「それに?」
「北条も年じゃからな」
「まあ、時代ですかねー」
「時代で片づけるなワシとていつ迎えが来るか、わからぬのだからな」
「…はい。心します」
放火した者たちを見たのがいるのに、ちゃんとした証拠を持ってこいとは。
焼けただれた壁を見ているのは、ま組、め組の棟梁。
「油もどこだと特定できるわけじゃなし、どうしたらいいものか」
しゃがんで、すすを見ている。
「落ちているものもねえし」
「アー!くそっ!見たのがいるのに、そいつじゃ証拠にならないってどうなってんだよ!」
「まったくだ、すすが付かないように風のない日を狙ったのもなー」
「もう!」
「ん?これは」
「何か見つけたか?何でぃ手の後じゃねえか」
「手だ!これだよこれ!紙はねえか?」
「紙?かえしぐれえなら」
「持ってくる、ここ誰にも触らせるな、お前も触るなよ、猫や犬も通すな!」と走っていきやがった。
この手の跡が何になるんだ?
「先生!幽玄先生!」
「どうした?」
「見つけた!親方が先生連れて来いって!」
人だかりの中を分け入るとそこにはねじり鉢巻きをした火消したちがぐるりと壁を囲んでいた。
「先生連れてきやした!」
ざっと開いたところへ通された。
「見て下せえ、手形が残ってます」
「壁だけじゃなく、桶にも、ただこれと紙をどうしたらいいか?」
「よくやった、伊織、手形をとれ」
「はい!」
「幽玄先生、手形をとってどうすればいいんですか?」
「捕まったやつらの手形と合わせるんじゃ、それも指先までな」
「そんなことで犯人が分かるのですか?」
「わかる、お手柄じゃぞ」
わっと、みんなが沸いたのでした。
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