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江戸、下総の国の上屋敷。
火事のこと、それについて細かく聞かれたのは、江戸屋敷を任されていた堀田家、嫡男、総一郎。
大河からしてみれば親戚になるが母も父も、あの人は人を見る目がないから、気にせずにと新之助の父に話していた。
一度だけ、町奉行は訪れたが、屋敷の前で返されてしまって、何かあると踏んだ北町は、屋敷を見張っている。
「困った、困ったことになったぞ」
「落ち着かれなされ」
「これが落ち着いていられるか」
「いくらなんでも、紀州のうつけのお気に入りの町役人ごときがこの城の中へ入ってくるなどということはありません」
「だが勘定方時は気が付いたのではないか?」
「まさか、死人に口なしです」
「だがまだ生きているのはいるではないか?」
「ああ、そっちももうすぐ」
「もうすぐと言って二週間だぞ、火事から二十日も過ぎたのだ残った息子は?まだ見つからないのか!それに、米問屋はどうなった」
「そちらももうすぐ」
「はよう落ち着いて眠りたのじゃ、あのようなもの、全部始末はしたのじゃな」
「ええ、すべて焼き払いましたので」
バサッと目の前に座った人。
「金すはどうなった、準備できそうか?」
「お任せください」
「お前もゆっくりしたいであろう、父が亡くなれば、私も晴れてここから帰れるのだ、向こうでのんびりしたいのだ」
「ええ、それももうすぐです」
「殿、勘定方が」
「ほら来た、すぐに参る、柴田、頼むぞ」
「ははー」
バタバタとそこから出ていく人。
「柴田様」
「聞いておったか、あの通りだ、ふっ、ご自分がこれからどうなるのか分かっておらぬとはかわいそうに、それで?見つかったか?」
「それが」
「どこへ雲隠れしたものか?」
「そちらではなく国からこれが」
手紙を渡した。
それを見ると、眉を上げた。
「なんと?」
「くそっ、国元へ戻る!」
手紙を押し付けた、そこには殿が回復したと書かれてあったのだ。
は?瀕死だったのに?私もそこからすぐに動いたのだった。
「あれから町方は?」
「来ておりません、会うこともなく」
「十分注意しろ、下手に口をひらけば上げ足を取られるぞ」
「はい」
国元へ帰る支度をしておけよ、それとアー、もう、とにかく、すぐに動くぞ!
ははー。
パチン。
植木職人はその様子を見てすぐに片づけ始め、屋敷を出て行った。
「ただ今」
「伊織様、おかえりなさいませ!」
「留守中何か変わったことは?」
「いいえ、大丈夫です」
「そうか」
「ご苦労さん」とひょっこりと顔を出した人。
「忠助、来てたのか」
「帰ってくると聞いたからな」
そうかといって、井戸で手を洗い顔を洗った。
「それで?」
手拭いで顔を拭きながら、もう大丈夫だと言って、縁側に腰を下ろした。
「大河殿は?」
「祖父と叔父の看病に明け暮れている、よい弟子だったよ」
「そうか」
彼は名前を隠し、伊織の弟子として国へ帰った、そこで見たのは瀕死の殿様と叔父だった。薬と押し付けられたのはアヘン、それも煎じて飲んでいたという、よく死なずに持ったと伊織の手紙で様子をしていった。
すぐに伊織の看病で持ち直し、今は立って歩けるまでになったそうだ。
「で、そっちはどうだ?」
「ああ、今朝向こうから立った者が上屋敷について、今頃はてんやわんやだろうな」
「二週間も日をやったのに、だれも動かなかったのか?」
「ああ、江戸の中を探し回っただけ、だが収穫は大きかったな」
「何があった」
まずは勘定方が動き、上屋敷にいる下総の国の長男総一郎の散財について今頃言及しているさなかだろう。
やっと重い腰を上げたか。
ああ、一橋家も散々な目にあったな。
「老中がらみだろ?」
お茶を持ってきてくれた女性にありがとうと声をかけた。
「伊織様、先生にあいさつが先なのでは?」
「おう、そうだった」行ってくると腰を上げた。
私もその後を追った。
「老中だってよくわかったな」
「向こうの殿様に聞いたんだ、息子より、そばにいる柴田が後ろで手を引いているって、だがな、そいつはいい家臣で、殿様に、息子は次の代継げないと言っていたらしい」
「へー?じゃあ次に誰を押すつもりだったのかな?」
「さあ、年頃の男子は今いる大河とまだ赤子の一番下の娘の子だという」
「赤子?」
「ああ、そう聞いた」
「赤子……まさか」
「どうした?」
「まさか摂政を考えている?」
「両親がいるのにか?」
「だがなんで上州屋が絡んでくる?」
「ああ、なんでも新之助がまだ腹にいる時分(じぶん)に、彼らが下総でコメの買い付けをしていて、そこにたまたま妊婦の大河の母親が子をなして助けたのが縁だ。横山は上州屋と出会ってから運気が上がり、江戸に召し上げられた。その縁で、子供が結婚」
「妬みか?」
「どこが?」
「睨んだとおり、米問屋が絡んでいる」
「米問屋?どういうことだ?」
「こうしちゃいられない、またあとでな」
「お、おう」目で追いながら、先生ただいま帰りましたと襖を開けたのだった。
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