青い蜜柑

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そのころ奉行所では、あることが報告されていた。 「そうか、ではそのまま屋敷を見張るように」 「はっ!」 植木職人になって屋敷を見張るとはやるねー。 その声に、じーっと見るお奉行様は黙って机にある者を読み始めた。 「まったく、余を何だと思っておる」 そういいながら、火鉢の上に置いた網に魚を並べて、その辺にいる者たちに食えと言っている。 「この世の天下人だそうですよ、いただきます」 「ですから、このような案件は殿に頼むことしかできないんです、これうまいです、もう一つ」 「左門、おぬしこやつらの親であろう」 「親ですよー、つかいっぱしりさせてすみませんねー」 「まったく、忠孝(ただたか)、お前までなんで居(お)るのだ?」 「まあいろいろと」 「親がすみません」 「おー帰ってきたか、何か収穫はあったか?忠助」 「ありませんよ、父上、私にも見せてください」 まったく!余はなんなだと言ってあぶっていたイワシの干したものを口に入れた。 町方では目にすることのできない、各藩の出来事、ましてや火事である、その内容を目を皿のようにしてみているのは大岡の父親と北条。 ブツブツと言っているこの人は時の将軍八代将軍になったばかりの紀州家の徳川吉宗様。兄が急死したため白羽の矢が当たった彼だ。この後も徳川御三家の中で唯一将軍を出したのは紀州家だけである。 紀州という遠いところから来た若者は、年の近かった大岡の息子たちや伊織と仲良くなった、そして市政のこともよく見に来ていたため、江戸上屋敷を抜け出してはたいそう屋敷の中の者を困らせていたという。その若者が将軍となったのだ、今まさに世の中が動き出そうとしている時であった。 「一橋は何かをつかみましたか?」 「つかんだんだろうね、朝から、屋敷を封印するとかで、俺のところにも来てやれサインしろだの、判を押せだの」 「お取りつぶしですか?」 「息子が散在しただけだろ?ならねーよ」 「ですがそれを関係ない下の物に着せようなんて、あんまりだ」 「まあなー」 「まあな―じゃないですよ、あんたこの国のトップ、わかってる?」 わかってまーす。 「見つけた!」 何を見つけたのですか? 焼けた屋敷で、大目付たちが入る前に見つけたもの。ただの紙の破片ではあるが、結納が積まれていた場所には、焼け残った海産物などがあり、その中にあった紙の破片と一致するもの、その上に書かれていた名前。 「下総の国、柴田光春」 中身は? 海産物としか。 海産物だと? ふむ。 「大岡殿、下総へだれか送ります」 「そうだな」 「ではわたくしが」 「待て、おぬしは」 「お奉行、下っ端とはいえ、今は中のことを知っている私が」 「おい、おい、待て待て、忠助、お前伊勢に行くのではないのか?」 「ええ行きますよ、まだ日はありますし」 「忠孝、お前止めぬのか?」 止めてなんとなりましょう、すぐに立てるか? 「すまぬが、すぐにでも立ってくれ」 「ふむ」 「だめですよ」 「まだ何もいっとらん、だがいいな、海産物がたんと食えるな」 「まったく、ダメですからね」 「えー、行きたい、下総は近いんだろ?」「はいはい留守番してくださいね」ぶすっとする将軍様です。 「奉行!お奉行はいずこへ!」 「ここだ!」 「ここって、うわー殿!」 「よい、よい、急ぐのではないか?」 「ああ、はい、今しがた、下総の柴田が、国へ向かうと数名を従え屋敷を出たそうです」 「なに?」 その中にあの二人がいたという。 「ほお?なんか楽しくなってきたな」 「楽しまないでください」 「忠助、わしも行くぞ」 「はあ?」 「そうだ、その米問屋の次男坊も連れて行かねえか?」 「何を言って!」 「そうさな、武士としての最後?見届けるチャンスじゃねえの?」 「はあ?なにを?」 「殿、それはこちらで、そのような話、若いものに持ち掛けないでいただきたい」 「だがな、左門、仇討とはそのようなものが持つ感情をそこで抑えなければ、次に持ち越されたら、因縁は大きくなるぞ」 「ここで断ち切るためにもさせろと?」 「まあその気があればだが」 「俺はあおりませんからね」 「えー俺見てみたい」 「そんなものやランでよろしい」と父に引っ張られた。 「では、いってまいります、石田、ひもでくくって城に追い返せ」 「ラジャー」 「俺はお前の上司だぞー!」 「上司ならやることしろ!」 「だそうです」 「お前も連れないねー」 「私も部下ですから」
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